第56話

「あの時はありがとうございました」


「いえ、どうも…」


「あの時お譲りして頂いたネックレスは大事に使わせて頂いてます」




ほら!とネックレスを見せられ、先月行った宝石店で起こった出来事を思い出す。



そう。あの日、私は確かにネックレスを彼女に譲った。



ずっと欲しいと思ってたお気に入りの宝石ブランドのネックレス。


迷いなく買うには少しお高めの値段。


何度も何度もお店に足を運んで買うか悩んでうっとりしては諦めてを繰り返し『ダメよ、桑子。贅沢は敵。あぁ、だけど…』と散々迷いまくった末に先月の始め頃やっぱり諦めきれずに買うことを決心。



その日入ったボーナスを全額まるまる握り締め『あの子とは運命!今日こそ絶対に結ばれるわ。今から迎えに行くからね。待ってなさい』と可笑しなテンションになりながらも足取り軽くネックレスを買いに行った。



しかし、そのネックレスに魅入られた女は私以外にも沢山居たらしい。


お店には最後の1つしか残っていなかった。



しかも生産終了だとかで他の店舗にも在庫が残っておらず、文字通り本当に最後の一点。



勿論、私は『ありがとう。待っててくれたのね。やっぱり私とあなたは結ばれる運命だったんだわ』と感極まりながら、ショーケースから出して貰ったネックレスを手に取り微笑んだ。



そして、その時、私の隣に来たのが今城さんだ。

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