第12話

ちなみに伊那君は私が社内で仲良く話せる唯一の人間である。


貴重も貴重。


トラブル続きでも会社を辞めなかったのは彼の存在がかなり大きかった。



「実は安久谷さんが明日使う予定の資料をシュレッダー行きにしてしまってな」


「安久谷さんが?珍しいですね。いつも慎重に取り扱ってるのに」


「いや、それが、やったのは川合さんなんだが。彼女に破棄するように指示を出したのは安久谷さんらしくて」


「指示を出した?出したところで破棄をする前に部長から“破棄”の判を押して貰う必要があるでしょう?それはどうしたんです?」


「それは…」


「まさか押したんですか?」


「ない。絶対にあり得ない」


「なら川合さんが勝手に早とちりしてやっただけじゃないですか?彼女、返事半ばのミスが多いですから」


「あぁ、まぁ…」




ガックリと項垂れる部長と話しながら伊那君は自身のパソコンを開く。



そうだ。破棄の判の存在を忘れてた。



『押さずに破棄は厳禁』の規則は会社で最も重要なものである。


知らない筈が無い。



萌のやつ…。伊那君が言ってた通り本当に早とちりだったんじゃない?



私が部長の机を指差してるのを見て『“破棄”の判を押してシュレッダーに掛けといて』と頼まれたと思ったのかも知れない。



確かに萌は話半ばで返事をする時が多々あるし。

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