第11話

「何かトラブルでもありました?」



怒鳴る部長の声を遮るように、取引先から帰ってきた同僚の伊那君いなくんがのほほんとした顔で鞄をデスクに置く。


口角が緩く上がってて目が優しい、癒される感じの穏やかな笑顔だ。


商談が終わって疲れてるはずなのに、出社してきた時とキラキラ度が何一つ変わってない。


ビシッとスーツを着こなしてて、朝一番の輝きを終業間際の今もまだ保ってる。



「あー、伊那君か」



喧嘩の仲裁に入るには似つかわしくない笑顔を向けられ、召喚獣みたいに火を吹きまくってた部長も落ち付きを取り戻したらしい。


怒りと言う名の羽を畳んで表情を和らげる。



やばい。避雷針がやって来た気分だ。



さっきまで後ろでブツブツ言いながら帰り支度をしていた社員達も「伊那君、お疲れ~」なんて甲高い声を上げて笑ってる。

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