第59話

それが完了するまでの間、草薙さんはずっと待っていてくれたし、お姉ちゃんも友香ちゃんも、陰ながら私を支えてくれていたのだと知っている。


 そうして年月が流れていき、就活の時期に入って。


 友香ちゃんは以前からお姉ちゃんに誘われていたこともあり、お姉ちゃんが勤めている化粧品会社へと就職が早々に決定し、私はというと、全く別の会社の面接をとにかく受けていた。


 そのうちに大企業と言われる場所でありがたくも合格をもらうことができ、去年の春から私はその企業の事務員として仕事をしていた。


 お姉ちゃんからは何度も誘われたけれど、身内のいる職場はなかなかいきにくいということもあり、それを最後まで断って、何度も進路相談所に通い、仕事を紹介してもらい、就職を果たしたのだった。


 あの日から、春翔にぃは言葉通り、私の目の前に現れることはなかった。


 すぐそばにいたのか、それとも本当に遠くへ行ってしまったのか。私は知らない。多分、春翔にぃの実家にそのことを聞けば答えてくれたかもしれないし、春翔にぃが先手を打ってそれを阻止ていたのかもしれない。けれど、私はそれすらもわからないのだ。私がその行動を起こして仕舞えば、春翔にぃの気持ちが無駄になってしまう。私のために私を気にしてくれていた人たちへの裏切りになってしまう。そう思うと、行動に移すこともできなかったのだ。


 今までも散々、自分勝手に行動をしてきた。一方的な思いを押し付けて、勝手に離れようとしたのに最終的にはそれができなくて、相手にその行動をさせてしまった。


 甘えたな行動のせいで、いっぱい傷つけてしまった人がいる。


 だからこそ。


 私はけじめをきちんとつけて、思いを伝えたかった。




(……それがこんなにも時間がかかってしまうのはだいぶ予想外だったけれども……)



 そう、結局私が大学を卒業し、就職して職場に慣れるまでの一年。併せて5年、待ってもらってしまったのだ。



(よく待っていてくれたよね……いや、捨てられるとは思っていなかったけれども、それでも愛想を尽かされてもおかしくはないぐらいの年月は経っていたと思うのよね……)



 そう内心で呟いている私に気づいたのか、草薙さんがギュムッともう一度私を抱きしめる。



「綾ちゃん?」


「……草薙さん……あの、ありがとうございます」


「……え、突然だね? 何? 何が? 聞くの怖いんだけど」


「いえ、わたしをずっと待っていてくださったので……」


「ああ、そんなこと。……そっか、君からするとそうなるよね。うん」


「?」



 草薙さんの言葉に、私が首を傾げる。

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