第55話

ずるい。私は、とてもずるい。わかっている。


 それでも。



「好きだったの……本当に、大好きだったの……!」



 友香ちゃんに抱きつきながら、そうを呟いて。私のその声を聞いて、智香ちゃんは抱きしめる腕をさらに強くしてくれた。


 その優しさに甘えている自分に、私自身がすごく腹立たしいっ気持ちを感じたのは、私自身が自分のこの状況を客観的に見ていること現れなのだと、そう感じた。







 私が落ち着いてから、いや、落ち着く前からではあったけれど、その場の空気は重苦しいものだった。


 私自身の精算と、春翔にぃの精算。それを自分でやるのではなく、他人を頼った私。



「……私は、ずるいね……」



 そう呟く。これで何度目になるのだろうか。わからない。終わらない自己嫌悪が続き、どれほどの言葉をかけられても受け入れることができないでいる。


 友香ちゃんの励ます言葉。お姉ちゃんの元気付けようとしてくれている言葉。それらが右から左へと流れていくのを自分でも感じる。


 肯定の言葉を受け取ることのできない臆病な私に、二人は優しい言葉を何度もかけてくれているのに。それに応えることもできなくて。


 俯いて、二人の言葉を拒絶していた私の頬に手が伸びて、両側から力強く挟んでくるものがあった。


 驚いて目を見開いたまま、促されるままに顔をあげれば、目の前には草薙さんがいっぱいに写っている。


 何かを言おうとしたけれど、何を言えばいいの変わらなくて、そのままの状態で視線を彷徨わせ、結局、まぶたを強く閉じて拒絶の態度を示した時。



「俯くな」


「!」



 力強い言葉に、私はハッとして目を開ける。真剣な表情の草薙さんが私をそのまま強く見つめ続けている。



「下を向いて何がある? 何もない。過去を振り返ってもいいが、囚われるな。君は、前を向くと彼に言ったんだろう? ならばそれをきちんと実行に移せ」


「……」



 いつもの優しい響きの言葉ではなく、叱咤された時の声に似ている。



「あの男は、君ができなかったことを代わりにやってくれたんだ。君が足踏みしていたことを、代わりにやり遂げた。そんな相手に、君はいつまで甘えているつもりだ?」


「…っ!」


「確かに、その選択をするのは辛かったかもしれない。周りに脅されたと思うのならそれでもいい。だが、それでも最終的に決定を下したのは君自身だということを忘れるな。周りに甘えることをよしとするのは謙虚でもなんでもない、ただの甘ったれた子供だ」



 まさに正論をズバズバと言われてしまい、私は何も言い返すこともできず、かと言って反論をしようとも思えるほどの気力もなかった。

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