第51話

「……お前に、何がわかる……」


「その言葉はもう聞いたな。だが、何度でも言う。何を勘違いしているのかと。お前は選択を誤った。それは自分でも理解しているだろう。だからこそ、綾ちゃんの気持ちが離れていっていると自覚できた。それなのに、どうしてまた気持ちが離れていくような行動しか取らない?」


「……」


「前にもいったと思うが、お前は選択を間違えた。綾ちゃんがちゃんと好きならば、それを言葉にしなければいけなかった。幼馴染みだからといって全てを理解してくれると思うのは愚の骨頂だ。お前にも感情があるように、綾ちゃんにだって感情がある。お前が言葉に出さなかった分、綾ちゃんはちゃんと言葉にしていた。だが、それを受け取らなかったのはお前自身だ。そうだろう」


「……俺が、欲しかった言葉ではない…気持ちではない……それなのに、それを受け取るなんてしたくなかった。それだけだ」


「ま、確かにその“好き”が家族愛だったのかも知れないというのは容易に想像がつく。なにせ、家族絡みの付き合いなんだろう? だが、それならばちゃんと言葉にするべきだったのではないか? 綾ちゃんにだけ求めるのは間違っている。お前は努力するべきだった。綾ちゃんからの愛情をもらうためには、お前自身が一番努力するべきだったんだよ」



 そう言って、草薙さんが春翔にぃに説教のようにつづける。


 そしてそれは、私が春翔にぃに伝えたかったことでもあったんだと思う。


 知らず、涙が頬を濡らした。



「親愛と恋情は混ざりやすい。それの線引きは本人では難しいはずだ。ならば、気持ちを向けられている本人がその線引きをきちんと自覚させてあげなければ、お前が欲していた言葉は一生かかってももらえるはずがない」


「……っ!!」


「優しさに胡座をかきすぎたんだよ。お前は」



 多分、それは決定的な言葉。


 目を見開いたまま固まってしまった春翔にぃを見つめる。


 私が言いたくても言えなかった言葉を、代わりに言ってれた草薙さんを、思わず見つめてしまう。


 真剣な瞳で春翔にぃを見つめて、真剣な言葉を伝えてくれている。


 それは、同じ場所にいるはずの私が言えなかった言葉を代わりに言ってくれている。


 それだけで、涙が出てくる。頬を濡らすそれに気づいて、友香ちゃんが慌てて涙をハンカチで拭ってくれる。


 それに小さくお礼を言うことしかできなくて。無意識に草薙さんの腕に触れて、両手ですがるように、握りしめた。

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