第49話

「それよりも草薙さん。綾のストーカーがついてきてますけど、いいんですか? マンションの場所を教えるようなことして」



 私の感じていた息苦しさを断ち切るように友香ちゃんが声を出してくれる。


 その友香ちゃんに答えたのはお姉ちゃんだった。



「いいのよ。もう隠れても隠してもダメだって理解したから。今回は奏の家で話し合いが目的だから、むしろ来てくれなきゃ困るのよ。ま、くるなって言ってもあいつなら来ただろうからそのまま無視しておいてきたんだけどね」


「……声かけなかったなとは思ってはいましたけど……まあ、それでいいならいいとも思いますけどね……」


「そうそう、もうこの話はおしまい。ほら。もう着くわよ」



 そう言われて私も友香ちゃんもハッとして顔をあげれば見えたのは少し見慣れたマンションの外観。


 そうして、私はほんの数日ぶりに、そのマンションに足を踏み入れたのだった。





 部屋の中にいる顔ぶれが、何だかすごいことになっているような気がすると、私はこの時に初めて気がついた。


 味方のいない春翔にぃはそれでも堂々としていて、こういうところはきっと経営者たる威厳なんだろうなとも思う。いや、今はそんなことを言っている場合ではなかった。


 そんなことよりも、私自身がいる位置がすごい。いや、私の周りを固めている人たちがすごいというのだろうか。


 友香ちゃんは、私が腕に張り付いているため、私のすぐ左隣にいてくれており、すぐ右隣には草薙さんがいて、そして私の背後にはお姉ちゃんが立っている。


 ……え、なんだろう、この状況……。


 私だけ置いてけぼり感が半端ない感じなんだけど、でも多分それは友香ちゃんも同じことを思って居ると思う。というか、社会人組よ、もう少し大人の余裕というものを見せてくれてもいいと思うの。



「まだ話は終わってなかったな、綾」



 そう言って話しかけてきたのは春翔にぃ。私もそれに応えるべく視線を春翔にぃに固定させる。



「俺はお前のことを以前からちゃんと好いていた。妹のようにではない、ちゃんと女としてお前の事が好きだ。今も、この気持ちは変わらない」


「……じゃあ、どうしてわざわざ私に彼女を紹介してきたの? 彼女だけじゃない。悠里さんに関しては婚約者だって言って紹介してきたじゃない」


「それはそうした方が綾の気を引けるかもしれないと言われたからだ」


「相手にそう言われたからそうやって言ったの? …私に、春翔にぃの気持ちを何も教えてくれることなく、そんなことを言われたら、本気に取られてもおかしくないってわかってたよね? だって、春翔にぃは私の気持ちが離れて行っているのを自覚していたんでしょう? どうして、そんな私を試すようなことをしてきたの?」


「お前だって、俺に対して決定的な言葉はくれなかっただろう!」


「好きだけじゃ……ダメなの?」



 それは、私にとってはとても大切な言葉で、気持ちで、感情で。

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