第47話

見上げれば、そこには私に向かって優しく微笑んでいる草薙さんがいて、思わずその顔をまじまじと見つめてしまう。


 久しぶりに見た草薙さんは相変わらず優しげな表情をして私を見つめてくれていて、そして、私もその顔に思わず見惚れてしまう。と、突然「ゴホンッ!!」って思い切り咳払いをされて、私の体びくっと震える。そんな私を落とさないようにするために草薙さんが私を抱き上げている腕に力を込めた。


 背中と膝裏に暖かな感触を感じる。


 それに疑問を持った私が、思わずもう一度草薙さんを見上げて首を傾げてしまう。そんな私を見ても草薙さんはニコニコと笑っているだけで何も言ってくれない。そっと友香ちゃんがいる方を向けば、思い切り呆れた表情をしている。……自覚したくないの、お願い、そんな表情で私を見ないで。


 縋るような私の視線を受けても、友香ちゃんの表情は変わることがなかった。



「……奏、いい加減にしないと股間蹴り上げるわよ? 思いっきり蹴ってもいい? あ、でも感触を感じるのは最悪だからどっかから鋼鉄の脛当てでも借りてこようかしら」


「……涼香、恐ろしいことを言うな。本当にやりそうで怖いだろう」


「本気で言ってるんだから当たり前でしょう。いいから綾を下ろしなさい。こんな場所でお姫様抱っことか、公開処刑させてどうするのよ」


「せっかく会えたんだ。少しでも離れていたくない!」


「お前の感情なんか知るか。離せ」



 ……お姉ちゃん、怖い怖い。そんな美人さんがドス聞かせた声を出さないで。せっかくの美人さんがもったいない。なんてそんなことが言える雰囲気でもなく。


 というか、今お姉ちゃんがすごく重要なことを言った。そう、すごく重要なことを言ったのよ。……お姫様抱っこ? え? 誰が?



「……あれ?」



 いや、むしろこの場合当てはまるのは私以外にいるはずがない。そう、いるはずがないじゃないですか!



「っ! ぅにゃああああああっ!!」



 思わず、ものすごい変な奇声を上げて、私は自力で草薙さんの腕から逃げ出してしまったのだった。元バスケ部員だから瞬発力もジャンプ力もちゃんとあるよ! 高校の時は体育で柔道をほんの少しかじったから受け身ぐらいだったらできるのだ! すごいでしょ! ……いや、誰に向かってそんな言い訳してるの私!!



「友香ちゃーーーーんっ!!」


「面倒ごとをわたしに持ってくるな!! むしろ大人しく腕の中に囲われてればよかったのに!!」



 ……思いっきり避けられた上に、何気に辛辣なことを言われている私。……え、辛い……。

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