第46話
過去の思いをここで断ち切って、断ち切らせなければ。
私が前に進むためには、必要なことであり、それは、私だけではなく、春翔にぃにも同じ事が言える。
だからお願い。手放して。
そう願ったのに。
「絶対に、お前の気持ちを俺に直させる」
「え?」
言われたことの意味が、一瞬では理解できなかった。私に向かって手を伸ばし、掴む。それは、想像よりも、ずっとずっと強い力で、思わず息を詰めてしまう。
「どうして、やっとここまで来たんだ。気付いていないとでも思ったのか? 綾のその気持ちなんて知っていた! そんなもの、とっくに理解していた!! だからこそ! できる範囲でやろうとした結果がこれか!? こんなことならば、お前を無理やりにでも奪って仕舞えばよかった!!」
激情。そう言っても差し支えのないこの言葉に、私がどうすればいいのかわからなくなってしまう。どうして、なんでと自分に問い続けるけれど、わからない。
「何のために、仕事の合間合間にお前を迎えに行ったと思っている。そのスケジュールを把握するために、お前のスマホをハッキングまでして! それなのに、お前は……!!」
「犯罪を堂々と言わないでください! 綾、振り解いて! ここから出よう!」
「友香ちゃん、あの……っぃ!?」
「離さない。この手を離したら、あの男の元に行くんだろう!? 絶対に離さない! お前を囲い込むのは俺だ! お前の愛情を受けるのも、俺の愛情を受け取るのも綾だけだ! どうしてそれがわからない!」
「わからないよ!!」
無理やり、自分の腕を取り戻す。ざわついていた店内でも、私達の様子を盗み見ている人たちがいて、耳をこちらに傾けている人がいる。こんな話はここでするべきではないとわかっているのに、目の前の人から逃げようとここを出ようとすれば、もしかしたらそのまま拉致されてしまうかもしれないという恐ろしい考えを自分が持ってしまっている。
だからこそ、この席から動くことができないでいる。
目の前で私を強く睨み付ける春翔にぃがいて、そんな春翔にぃを牽制するように友香ちゃんが私を肩に手を置いて、背中にソファーの背もたれがしっかりとつくように押し付けている。少しでも距離を稼ごうと思っているのかもしれない。
無駄だとわかっていてもそれをしているのは多分、友香ちゃんも私を同じような考えを持っているからだろうと思う。
お互いにどうすればいいのかわからなくなっていた時。
突然落ちて来た影に、ふわりと。
体が優しく浮き上がった感覚に、私は何もいうことができないほどに驚いて、体を硬らせた。
「お待たせ、綾ちゃん、友香ちゃん」
そう言って、優しい声で言葉をかけて来てくれたのは、私が今、思いを寄せている人の声だった。
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