第45話

せっかく離れる準備をし、それが整ったのに、離れようとしている相手本人がそれを止めに入るんだもん。


 私も両親も、それは焦るよね。



「あの時、私の両親が私の援護射撃に入ってくれたのは、私の気持ちを理解してくれていたから。それなのに、春翔にぃが頑なに譲らなくて。多分、お父さんは内心だいぶブチギレていたんだと思うよ?」


「っ!!」



 そう言いながら、私はカフェオレに手を伸ばし、コクリと口に含む。



「……逃げたかった。それは事実。けど、もう一つの目的として、私はちゃんと自分で立ちたかった」



 何を言っているのかと、そんな表情になっている春翔にぃを見つめながら、私は言葉を続ける。



「今までの私は、そばに春翔にぃがいなければ立つことができないと思っていたの。春翔にぃが、私にどれほど残酷なことをしても、そばを離れられなかった。私は、あなた無しでは生きていけないと思い込んでいたから。……でも、違ったの。大学に通って、友達がたくさんできた。親友と呼べる人もいる。もちろん、中学や高校の時の友達だって大切だけど、実はね、みんな春翔にぃの気を引きたかったから私にそばにいるんだってことも気付いてた」



 もちろん、それだけが目的ではないということもわかっている。でも、あの時の私は、周りに合わせて笑って、その場を凌ぐことしかできなかった。私から離れた人だっている。けれどその理由は、春翔にぃに告白してうまくいかなかったからだっていうのも知ってた。


 私のそばにいても、なんのメリットもないと理解したのだと思う。だから離れた。それだけのことだ。



「私たちは、近すぎた。そばにいたいと、相手を束縛し過ぎた。だからこそ、見えなかった。でも、離れてみてわかったの。離れようとしてわかったの。私は、私の隣に春翔にぃがいなくても立つことができる。歩くことができる。いろいろな選択と可能性を理解した。だから、私は春翔にぃから卒業するの」



 真剣な声で必死に届ける。


 目の前にいるのは、たしかに、わたしの初恋の人だった。私が好きな人だった。大好きで大好きで、仕方がくて。それでも、報われない思いを、抱き続けた人。


 けれど、私に限界が来た。


 自分勝手だってわかっている。今まで可愛がってくれていた人だ。妹のようだと言われて、勝手に傷ついたことだってある。


 それでも、好きだった。



「私のこの気持ちは、もう過去の気持ちなの。私は、春翔にぃが好きだった。その事実は、嘘偽りのない本当のこと」


「綾、どうして……やっと、ここまで……」


「でも、もうこの気持ちがあの頃と同じになることはないわ。だって……私には、他に好きだと思えてしまう人ができてしまったから」


「!!」


「春翔にぃ……私と一緒にいても、もう幸せにはなれないの」



 そう告げれば、目を見開いて私を見つめてくる。

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