第41話
『……とにかく、いまは全員が冷静になる時間が必要ですよ。草薙さんも、涼香さんも、もちろん綾も。全員が混乱して全員が自分の思い思いのことを考え発言しても、誰もその主張は聞いていないし、何か言っているという時点で言い訳に解釈されそうですから。あ、もちろんこれも全員がです。とにかく、一度その熱をクールダウンさせてください。話はそれからです』
わかりましたね、と念を押されて、渋々頷けば、それじゃという言葉と共にあっさりと電話を切られる。
大きくため息をつき、ノロノロと箱の中に入れば、それなりにしなけれならないことがあり、自分の脳内でやらなければならないことの優先順位をつけて一つ一つそれらをこなしていく。家に帰ってきたというのに、まるで仕事のような行動をしている自分に思わず失笑し、それと同時に、自分の中でどれほど綾ちゃんに惹かれていたのかを自覚する。
帰ってくるとパタパタと近づいて来てくれるあの女の子を、心の底から求めている自分に対して気持ちとは、感情とは、こんなにも大きく膨れ上がらせることができるんだなと、思わず感心してしまう。
それでも、いまその存在はそばにいてはくれないのだ。
「違う……誤解なんだ、綾ちゃん……僕が………が、好きなのは、君なんだよ……」
そう、言い訳のように呟くことしかできない自分に、悲しさと、虚しさと、憤りを覚えた。
◯
それから、一週間が過ぎ、ようやく、友香ちゃんから連絡が入る。
メッセージでの連絡は、とても簡潔な内容だった。
《綾の様子もだいぶ落ち着いてきました。話し合った結果、おふたりの休日に合わせて話し合いをしましょうという事になりました。ご都合のつく日にちを教えてください》
出社する前にその連絡を見て、慌てて涼香に電話をかける。弱々しい声で電話に出た涼香に今見た友香ちゃんからの連絡の内容を伝えて、涼香も慌ててシフトを確認する。
そうして、結局すぐに予定を合わせるにしても三日は待ってもらう事になり、綾ちゃんと対面を果たしたのは、実に十日後のことだった。
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