第40話

その後のことは、正直あまり覚えていないのが正直なところでもある。


 とりあえず、営業の邪魔になるあの男のことは放り出してから、自分も店内にいた客に向かって謝罪を繰り返す。幸い、うちは会員制であり、そこそこな上顧客しかいないため、明らかに様子がおかしかったのはあの男の方であり、自分の行動や言動については理解を示されたのか、所々で慰めの言葉をいただいた。


 そこからは死に物狂いで仕事を終わらせて、慌てて帰宅をする。


 しかし、待ち受けていたのはいつもの綾ちゃんのお出迎えではなく、真っ暗な自分の箱だった。



「……なんで……」



 こんな事になってしまったのだろうかと、思わず頭を抱えてしまう。いや、どう考えても、綾ちゃんは何かを誤解していた。おそらく、この状態では涼香の方も同じような状況になっているのだろう。あの誤解の中には、明らかに涼香も含まれていたのだから。


 一応涼香に連絡を取ろうと考えたとき、スマホが震えた。画面に映ったその名前を見て、一にも二にもなく、飛びついた。



「綾ちゃん!? 今どこにいるの!?」


『……昨日ぶりです、草薙さん。佐渡です』


「佐渡……え、と、友香ちゃん……? なんで友香ちゃんが綾ちゃんのスマホ……?」


『綾が助けを求めにきたところがわたしのところだったから以外に、理由があると思いますか?』


「……そう、だよ、ね……」



 自分でも何をとち狂ったことを言っているのかと少し冷静になって思わず自分に突っ込む。


 電話の向こうの友香ちゃんの声は、どこが冷たさを感じるのも、おそらく気のせいでは無いと思う。



『綾、泣いてましたよ。一応のざっくりとした状況を聞いてます。多分綾が誤解しているんだろうなってことも理解しています』


「友香ちゃん……」


『でも、しばらくはうちにいてもらう事にしましたから』


「!? ちょっと待って、それだとあの幼なじみが何するか…っ!!」


『でも、今の状態の綾は、貴方からの庇護も受けないと思いますけど? もちろん、それは涼香さんにもいえますが』



 全くの正論を言われてしまい、言葉に詰まってしまう。わかっている。そんなことは。わかっている。


 それでも。



「少しでも、綾ちゃんのそばにいたい……それでは、ダメなのか……?」



 すがるように言葉を紡ぎ出す。


 けれど、帰ってきたのは無情にも否定の言葉。



『ダメでしょうね。綾の誤解をしっかりと解かないと無理でしょう』



 わかっていたことではあったけれど、こうも正面から言われてしまうと流石に傷つくなと思ってしまう。

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