第34話
そう考えながら、私は友香ちゃんが戻ってくるまでにあとどのくらいだろうとスマホで時間を確認しようとした時。
「!?」
突然撮られたその腕に、驚き、声が出せなかった。
「ようやく捕まえた、綾。さ、一緒に帰ろうか?」
どうして、構内にいるのか、とか、どうして今この瞬間にここに立っていたのか、とか。聞きたいことや言いたいことはたくさんあった。けれど、目の前の人のその瞳を見た瞬間に、私はなにも言えなくなる。
笑っているはずなのに、全く笑っていない。背筋がゾッとするとは、きっとこのことを言うのだと思う。
私の手を掴んだまま、その人は私を無理やりに立ち上がらせて引っ張っていこうとする。そこで私は体が無意識に拒否反応を示した。
連れて行かれそうになっている体を、必死にそばに止めようと抵抗をする。
それに気付いたその人は、なんの感情も乗らない瞳で、私をただ見つめる。
「い、や……」
「綾?」
「行きたく、ない……」
「行きたくなくても、行くべきなんだよ、綾。これから綾にもう一度“現実”を見せてあげるから」
「な、なに、言って……や、離して、春翔にぃ……!」
「それは聞けないお願いだね、綾。さ、行くよ」
そう言って、春翔にぃは私の意見や拒否などまるっと無視して、私をそのまま学内から連れ出し、車に押し込めるように乗せてきた。
乗せられた時、本当は扉を閉められてもそのまままた開けて逃げればいいと思っていたのに、私を乗せた春翔にぃはシートベルトをつけた後、私がわざと怯えるほどの力の強さで扉を閉め、そのまま運転席に乗り込んだ。
どこに連れて行かれるのかも分からなくて、私はただただ震えている。
「そんなにも怯えなくてもいいよ、綾。行き先は、涼香の職場なんだからさ」
「お、お姉ちゃんの……?」
なんで、と聞きたいのにそれ以上は聞けなくて。ただひたすらに、私はお姉ちゃんの職場に連れて行かれる苦痛の時間を味わされた。
ついたのは、ビル。お姉ちゃんは販売の方を行っているため、ショップの方に連れて行かれた。
「綾、ほら見て?」
「え……?」
そう言って、春翔にぃの指差す方に視線を向ければ、そこには見知った二人が立っている。
そして、私はその光景に、ただ目を見開いていることしかできなかった。
「お似合いだよね、あの二人。俺もびっくりしたよ。でも、理解もできたかな。だって、そうじゃなきゃ男の家に大切な綾を預けたりなんてするはずないよね。でも、この事情ならわかるよね」
「……」
「ああほら、周りの人もお似合いだってみんなが褒めてる。ね、綾もそう思わない? 俺は、周りの意見に同調するかな。あの二人は、きっとずっと前からあんな関係だったんだよ」
ああ、もう、なにも、聞きたくない。見たくない。感じたくない。
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