第33話

『綾ちゃん、わたしたちの婚約を喜んでくれたのではないの? 姉のように思ってくれていいのよって伝えたじゃない。わたしは、綾ちゃんを本当の妹のように思っているわ』


「……そんなことを突然言われても困ります。私には実際に血の繋がった姉もいますし……それに私の伝えたはずです。春翔にぃとは血縁関係は一切ないと。それなのに、春翔にぃの妻になる方をなぜ私が姉と呼び慕わなければならないのですか?」


『綾ちゃん! どうしてそんなことを言うの!? わたしは、今本当に困っているの! 助けてよ!!』


「私にも予定や事情があります。私は悠里さんを中心に動くことはできません」


『春翔が大変なのよ!?』


「それは、私には関係ないのではありませんか?」



 自分がこれほどまでに拒絶できるとは、正直思っていなかった。だって、私は春翔にぃが間違いなく好きだった。いつも春翔にぃの後ろをついて歩くぐらい。春翔にぃのためにおしゃれを勉強したくらい。お化粧も、春翔にぃの隣に並べたらという僅かな期待を込めて一生懸命に頑張った。


 それでも、結果は現実なのだ。


 春翔にぃは私ではない人を何度も何度も選び、その度に私に律儀に紹介していき、それなのに期待を持たせるような行動を繰り返す。


 これほどに残酷はことがあるだろうか。



「私はもう、傷つきたくないんです」


『綾ちゃんが春翔のことを好きなんて知ってるわ! それでも、春翔が選んだのはわたし! わたしが春翔に選ばれた!』


「その通りです。なので私は私なりに終止符を打ったんです。だから、心からのお祝いを申し上げたでしょう? あれは紛れもない本音です」


『あんな白々しい言葉が本音のわけ!? そんなはずないじゃない! 綾ちゃんは、わたしと春翔の結婚式で悔しがっている姿を見せることこそがわたし達への最大の祝福よ!!』



 この人は、今、相手になにを言っているのかきちんと理解できているのだろうか。


 そもそも、私は二人の結婚式に参列する気はさらさらない。親族でもないため強制参加ではないはずで、どうしてもというのなら、私ではなくお姉ちゃんに頼むべきだ。何しろ、歳が一緒なのだから友人枠で入ることができるし、一番自然だろう。


 私の悔しがっている表情が見たいだけなら、もう十分に見たはずだ。


 私を目の前にして、婚約者と春翔にぃが紹介した、あの瞬間に。


 私は、これ以上の話し合いは無駄だと理解した。だからこそ、無言で電話を打ち切り、そしてそのままスマホを操作して今の表示された電話番号を着信拒否に入れる。



(今までの中でも、最高に最低な嫌がらせだわ……)

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