第22話
ガチャリと開けられた扉の先には、本当になにもない空間。空き部屋というのは本当だったのだろう。申し訳程度に部屋の隅っこにお布団が小さく折り畳まれておかれている。
そこに入って、私はどうすればいいのか分からなくなった。
がらんとした部屋の中は、なぜか胸が苦しくなるほどに痛くなり、その真ん中にポツリと立っているだけの私は、どうすればいいのか分からなくなる。
「綾ちゃん?」
背中から草薙さんが声をかけてくれるけれど、そんなことは関係ない。
(……ああ、そっか。この空間は…私の心の中の気持ちと似てるんだ……)
手を伸ばしてもなにも届かない空間。自分を満たすことのできない空間。現実では歩いて手を伸ばせば行き止まりにたどり着くけれど、私の妄想の中ではそんなことはありえない。
どれだけ歩いても、どれだけ走っても。どれだけ手を伸ばし、叫んでも。終わりにたどり着くことはないし、何かに触れることもないし、声が届くこともない。
好きなのに。
それなのに、それをどれほど伝えても届かなかった。
どれほど手を伸ばして捕まえようとしても捕まえられなかった。
泣いても叫んでも。相手にされなかった。
それを思い出した途端、今までにないほどの痛みを覚えて。手に持っていた鞄を落とす。どさっとそこそこ大きな音がしたことに草薙さんが驚いたのか、私にもう一度話しかけてくれるけれど、私はそれに応えることはしない。できない。
次から次へと流れてくる涙が、頬を伝って落ちていく。ただ茫然とたった立っていることしかできなくて。
どうすれば、私のこの気持ちは無くなってくれるのだろうかと。無駄なことを考える。
「綾ちゃん」
そっと。伺うように私に声をかけてくれた草薙さんに、私はようやく視線を向ける。といっても、私の正面に回って、私を覗き込んでくれているその人と視線を交わらせる程度のことしかできないけれど。
それでも。
「綾ちゃん、苦しいのなら、泣いてもいいんだよ。声を上げて、泣いてもいい。手を伸ばしてすがり付いてもいい。……今は、僕が君のその手をつかんであげる。僕が君のその悲痛な声を受け止めてあげる。だから、我慢しないで、綾ちゃん」
「……」
なにをいっているの。私は、大丈夫。
これが現実なんだってわかってる。分からないのは、春翔にぃの行動だけ。私は、平気。
苦しい思いをするのも、悲しい思いをするのも。ずっとずっと昔から慣れている。
だから、お願い。
包み込もうと、しないで。
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