第20話

「まっ、待て待て待て待て! 涼香、落ち着けって!」


「綾のことを頼めると思ったから連絡を入れたのに、お前までとは……、確かに綾はめっちゃくちゃ可愛いけどね。可愛いからこそ、他のやつに頼めないからお前に頼んだんだけどな? お前もか? お前もなのか? あん?」


「ちょ、涼香、お前っ、綾ちゃんの前でも猫かぶってたんじゃないのかよ!? 頼れるお姉ちゃんをいつでも発揮してるっつってたじゃん!」


「すぐそばに危険が迫ってるなら話は別だろ、お前は馬鹿か」


「お願いだからもうちょっと猫被っててくれないか!?」


「綾を守るためだったら何でもするって前々から言ってたはず。にもかかわらずそれを知ってるお前からのあの発言。許すまじ……」


「落ち着けって……っ! ちょ、綾ちゃん、本当に悪いんだけど、涼香を止めて!?」



 突然なんか無茶振りをされた!?


 いやいやいやいや、私だってこんなお姉ちゃん見たのは初めてだから全く分からないんだけど!?


 えっ、これはとりあえずどうしたらいいの!?



「お、お姉ちゃん!」


「綾、危ないからこっちに来て。と言うかまず車から下ろす方が賢明よね」


「えっ、降りてもいいの?」


「待った待った待った! 降りたらそのまま一直線で寮に逃げ込むでしょ!? ダメダメダメ!」



 ……行動バレバレだな……。でもお姉ちゃんは私を車から下ろそうとしている。いや、正直この状況で寮に逃げたとしても、お姉ちゃんは後を追ってくるわけだから逃げ切れるはずがないんだけどね?


 でも、これは逃げるチャンスとも取れるからお姉ちゃんに従った方がいい気もするけど…。



「綾ちゃん!」


「え、はい?」



 突然、切羽詰まったような声で呼びかけてきた草薙さんに思わず振り向きながら返事をすると、そこには本当に切羽詰まった草薙さんがいて。


 ……いや、私も無理ですよ? 期待に応えられな可能性の方が高いですからね?


 と本気で思っていると、私が思っていたこととは違うことを草薙さんに叫ばれた。



「涼香のことって、どのくらい好き!?」


「えっ? お姉ちゃんのことは言い表すこともできないほど大好きですけど?」



 突然何を言い出すんだこの人は、と首を傾げると、「綾……」と友香ちゃんがため息をついているのを見る。


 ……えっ、なに?



「綾ーっ!!」


「わぁぁぁああっ! お姉ちゃん!?」


「綾好き! 大好き! 愛してるわっ!!」


「わ、私も大好きだよ!? だけどちょっと恥ずかしいかな!?」


「恥ずかしがってる綾も本当に可愛い! ああ、もう危険を承知でうちに囲い込もうかしら…!」


「お姉ちゃんの家に行くの? 私はそれでも全然かわまわないけど」


「そう? じゃあこっち来よう? 送りは絶対にしてあげられるし!」



 盛り上がっている私とお姉ちゃんに、横から草薙さんが「僕の立場っ!!」って叫んでた。……うん、ごめんなさい。

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