第19話

「綾ちゃん、納得ができないのはよく分かったけれど、でも流石にあの状況を見た後に、じゃあやめようかとは言ってあげられない」


「……でも、草薙さんは完全に赤の他人じゃないですか。もともと私との接点もなかった。お姉ちゃんがいたからこうして出会って話をしているけれど、お姉ちゃんがいなければ私たちは出会うことすらしていないんですよ? そんな希薄な関係の中で、私はその相手の人に頼りたくない」


「……随分のはっきりとした性格なのはよく分かった。けど、こっちも諦められない。認められない。綾ちゃん自身も心配だし、なによりもあの涼香がわざわざ頼んできたってことの方が重大だ。涼香は普段、人に物を頼まない」


「それは職場でのことではないですか? そんなことは全くありませんけど」



 現に、お姉ちゃんは頻繁に私にお菓子を作ってーと頼んでくることが多い。たまに職場の人にもあげてもいいかと聞いてきたりすることもあるから、そういう時は多めに作ったりもしている。まあ、その時の食費はお姉ちゃんが事前に出してくれるけれども。


 仕事部分のお姉ちゃんは知らないからなんとも言えないけれど、できないことはできないと言っていると思う。仕事面でも面倒はあまり引き受けなさそうなイメージだし……。あくまでイメージだけどね。断れない仕事とかももちろんあると思うから、何ともいえないんだけど。


 私は草薙さんをじっと見つめる。でも、草薙さんも私をじっと見つめていた。


 それに、正直どきりとする。


 こんなふうに、正面から私をきちんと認識してくれているのは、お姉ちゃんや友香ちゃんだけだと思っていて、たぶん、それは違っていないと思う。


 だからこそ、こうしたい際の視線が自分にしっかりと向かっているのに居心地の悪さを感じてしまう。


 そして思ってしまうのだ。



 どうして、私を見つめてくれているのだろうと。



「僕は、綾ちゃんと一緒に住むよ。絶対に」



 突然の爆弾発言に、私はなにも言えなくなって。けれどそれはお姉ちゃんも友香ちゃんも同じだったらしく目を見開いて草薙さんを見ている。いや、今のは完全に言葉の選び方が悪かったと思うのよ。



「……あの、ちょっと言いにくいですけど、誤解を生むような言い方はしないでください……」


「え? ……………………あっ、違っ、今のはそういう意味じゃなくて……っ!!」



 なんで私の方が冷静なんだろう……。



「お前も危険人物扱いしないといけないのか?」



 低く、ドスの効いた声音でお姉ちゃんが唸るようにそんなことを言う。……ちょっと待って、お姉ちゃん、本気で怖いから!!

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