第17話

そうは言ってもやっぱりそこまで迷惑をかけることはできないし、私自身が嫌だという気持ちが大きい。そもそも自分のことなのに自分で解決できていないのが問題で、お姉ちゃんに頼ってしまったのがいけなかったのかもしれない。


 お姉ちゃんに相談すればなんとかしてくれると心のどこかで思っているのかもしれないのは多分ある。


 けど、だからって甘えていい理由には全くならないのだ。


 悶々と考えていると、車の扉をこん、とノックする音がして、驚いてそちらを見れば、お姉ちゃんが外に立っていた。



「よっ!」


「お姉ちゃんーっ! 聞いてないっ!!」


「言ってないからね。でもちゃんとルームシェアでもいいかは聞いてあげたでしょ?」


「相手が男の人だってわかってたらうなずかなかったよ!」


「だって何も聞かれなかったし」


「せめて名前教えてくれればよかったのに!」


「奏」


「え?」


「だから、名前。奏って名前なのよ、そいつ。その名前聞いても、多分綾は女の人だって思って何も変わらなかったと思うわよ?」


「………………」



 否定できないのが辛い。


 うん、絶対に名前聞いても女の人だと勝手に勘違いしたに違いない。そもそも名前だけで性別を判断しようとするのが悪いんだけどね。なんで世界共通だけど、男女で通用する名前が存在するのだろうか。混乱するじゃん……。



「おい、涼香……そこ伝えてなかったのかよ……」


「伝えてもよかったけど、それだとあんたに女装してもらうことになると思って」


「……いや、見た目からして僕には無理だろう……」


「その見た目で一人称が“僕”なのもだいぶギャップがあるけどね?」


「こんな見た目だからこそ、できるだけ最初の入りを優しくしようと模索した結果なんだよ」


「ずいぶんズレたことやってるわね。知ってる? 会社であんたがゲイだって思われてるの」


「はぁっ!? ちょ、なんで!?」


「女子の妄想力を舐めちゃあだめよー? 聞いてるこっちもびっくりするぐらいなんだから」


「待て待て待て! 訂正してくれてるんだろう!?」


「なんで私があんたのためにそんな面倒なことやらなきゃいけないのよ」


「涼香……っ!!」



 ……なんか、盛り上がってきたね、お話。今車降ります。そして私は友香ちゃんと一緒にこの寮に戻ります。自分の部屋に行きます。


 モゾモゾと動いてシートベルトを外して、車のドアを開けようとしたけれど、その前に外からお姉ちゃんがドアを開けてくれる。


 ありがとうと言葉をかけようとして、できなかった。

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