第13話

「わあっ!!」


「綾!?」



 掴まれている腕が、ひどく強くて、驚いてしまう。けれど、だからこそ自分の腕を掴んでいるのが誰なのかと言うことも理解できてしまって。そっと見上げれば、そこには想像していた通りの人物が立っていた。



「……春翔にぃ……」


「綾、なんで?」


「……一昨日、春翔にぃが私を突き放したんだよ。それなのに、どうして春翔にぃはまだ私を気にしているの?」


「綾が大切だからに決まっているだろう。心配だった。何度も連絡入れても出ないし、途中からつながらないし、メッセージも全然……」


「無断でやったのは、たしかに心配かけさせてしまったかもしれないけど……私、大学に入学するときにも言ったよ。……私は、もう子供じゃないよ」



 そう言った瞬間、私の腕をさらに強く春翔にぃが握りしめて痛みに声を出したかったのにそれすらもできないほどの強さに息を詰める。それに気付いた友香ちゃんが慌てて間に入ろうとするも春翔にぃが友香ちゃんを乱暴に振り払って友香ちゃんがバランスを崩してその場に尻餅をついてしまう。



「友香ちゃん!! 春翔にぃ! なにしてるの!?」


「話の邪魔をするからだ! 俺は今、綾と話している」


「それとこれとは関係ないでしょう!? 友香ちゃん、大丈夫?」


「平気、それよりも、綾、腕は大丈夫なの!? どちらかと言うとそっちの方が心配よ!!」


「と、とりあえずは大丈夫! 心配しないで!」


「全く大丈夫じゃないみたいね。綾、痛いらしいですよ、離してあげたらどうです?」



 ぎっと友香ちゃんが春翔にぃを睨むけれど、そんなことはお構いなしなのか、春翔にぃはバッサリとうるさいと言って私の腕を離さない。


 ……うーん、本当は血が止まっている感じがするから離して欲しい。と言ってもなんだか火に油を注ぎそうなので口が裂けても言えないけれど。指先の感覚がなくなってきたような気がしなくもないけれど、これは気にしたら負けなんだよねきっと。


 どうやってこの場を収めればいいのか、私も友香ちゃんも分からなくて、お互いに視線を交わしながらどうしようかと二人で悩んでいた時。



「綾ちゃん!」



 突然、全く知らない声に声をかけられ、私は「えっ?」とちょっと間抜けな声を出して声のした方を思わず見る。


 真っ暗、と言うわけではないけれど、シルエット的には男の人である。いや、声だって男の人だったんだけど。しかし、私に年上の男性の知り合いなんて全くもって心当たりがない。教授とかなら正直わかるけれど、それでも「綾ちゃん」なんで呼ばれたことはない。


 ……えっ、誰?


 と、本気で思っていると、その人の輪郭がはっきりとしてきて私も友香ちゃんもちょっと驚く。

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