第9話

スマホの起動音が聞こえてくる。そのほんの一瞬後、私のスマホが驚くほどのバイブ音を連続して出す。びくっと体が震えるのと同時に、それを手に持っているお姉ちゃんの表情がどんどんと鋭いものになっていく。


 多分、今のバイブ音も、殆どが春翔にぃなのだろう。


 バイブ音がなるたびに、お姉ちゃんが電源ボタンを連打しまくっている。……なんかごめんなさい。



「鬱陶しい男ね。こんなにも粘着質だったなんて……知っていたら可愛い綾に近づけさせなかったのに……」


「……え、お姉ちゃん、……えっ?」


「だいたいね、あんな男よりももっともっといい男はたくさんいるのよ。綾は純粋で周りにあいつしかいなかったからあいつのことを王子様みたいな感じで美化してたみたいだけど、あの男はクズよ。クズ。女の敵。とっととくたばればいいのに」


「……お、お姉ちゃん……」


「綾がいるからまだ我慢してあげていたということに気づいていないようね、これからは徹底的に避けるように頑張りましょうね、綾。友香ちゃんにも協力してもらって。……ああ、この学生寮もなんとかしないとね。場所ばれしてたら逃げ道もなくなっちゃうわ。どこか新しいところに引っ越す? うーんでも色々と心配なところもあるし……誰か頼れる人……」


「おおお、お姉ちゃん! 落ち着いて! なんかごめんね私がうじうじしてたせいで!?」


「ああ、綾。きにしないで。そろそろこちらの堪忍袋が切れそうだったのもまぎれもない事実だったんだから。それよりも、綾はどうしてそんなにも目を腫らしているの?」


「え、あ……えっと……」


「? 言えないこと?」


「言えないことというわけでは、ないんだけど……」


「まさか、あのクズ?」


「……えっと、まあ、そう、かな?」


「ちなみに内容は? また彼女紹介されたの?」


「……えっと、彼女ではなかった、かな」


「え? 違うの?」


「違うわけではないうけど……えっと、春翔にぃの、伴侶になる人……を、紹介された……かな?」


「…………海に沈めましょう」


「怖いこと言わないで!!」


「これ以上綾を傷つけたら赦しないって言っておいたはずなんだけど……まさか最後にそういう裏切り方をされるとは……いや、じゃあなんでこんなにも綾のスマホにあいつからのメッセージやら着信やらが入ってきてるのよ……とりあえず、着拒とブロック」



 ああ、私がスマホにロックかけていないことなんてお見通しですよね。うん……。お姉ちゃん、行動が早い……。

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