第6話

軋む胸の痛みを、いつまで抱えていなければならないのだろうか。


 心臓から、流れる血は、いつになったら止まってくれるのだろうか。


 いつまでこんな、作った笑みを貼り付けていなければいけないのだろうか。



「……綾ちゃん、もしかして、迷惑だった?」



 悠里さんの言葉に、わたしはハッとする。違う、そうじゃない。違うんです。



「そんなはずないじゃないですか! 悠里さん、春翔にぃもおめでとうございます! 心から祝福します!」


「……綾ちゃん……?」


「私もいつまで経っても春翔にぃに甘えてはいられないんだもん! 悠里さん、春翔にぃのことよろしくお願いしますね! 私、時々わがまま言っちゃうので、その時はちゃんと春翔にぃを引き止めてくださいね? わたし、悠里さんに嫌われたくないもん!!」


「ありがとう、綾ちゃん」


「幸せそうに笑ってくれないと、祝福できませんよ? 悠里さん。ほら、笑って笑って! あ、甘い物でも食べたら笑えますよ! 甘いモノは正義ですから!」


「ちょ、綾、落ち着いて……」


「友香ちゃんも、こんなめでたい話だなんて思わなかったから驚いたよね? なんかごめんね、たまたま居合わせただけなのに!」


「……綾」


「なにがいいだろう、ケーキ。悠里さんはここに来た事は?」


「何度かあるわ。おすすめはフルーツタルトかな?」


「じゃあ、わたしは友里さんのお勧めにしようかな! 友香ちゃんはどうする?」


「……あたしはコーヒーだけでいいわ」


「そう? じゃあ、わたしと半分こしない?」


「……綾と半分こならしてあげてもいいわよ?」


「ツンデレさん! 友香ちゃん可愛い!!」


「はいはい」



 底抜けに明るい声を意識して出さなきゃ。でも、春翔にぃが初めて“彼女”ではなく“婚約者”として女性を連れてきた。


 そのことに、多分、安心もした。



 私はこれで、不毛な恋に、区切りをつけられるんだから。



 そうして私たちはケーキを食べておしゃべりしながらそこそこな時間を過ごす。その間、春翔にぃが一言も喋らなかったことに疑問はあったけれど、今の私は自分の感情を隠すことに精一杯で。


 でも、これで春翔にぃが私のことを異常に心配をする必要も無いと思えばちょっとほっとすると言うもので。


 なんとか全てを笑顔でやり過ごして、なんとかその場を乗り切って。


 なんでもない顔をして、心配そうに私に話しかけてくれた友香ちゃんを無理やり返して。一人、寮の自室で、堰き止めていた涙をひたすらに流した。


 これで、最後だから。これで終わりだから。


 自分に何度も言い聞かせたその言葉を、また何度も言い聞かせながら。

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