第5話




 何度も何度も諦めようとしたのに、それができなかった。


 それなのに、あなたは何度も私を追い詰める。


 これで、何度目なんだろう……。







「……友香ちゃん、ごめん、付き合わせて……」


「いや、涼香さんと約束したし、あんな話を聞いた後だったから、心配だったのもあるし……てか、本当なの?」


「多分、そうだと思う。今まで何度か呼ばれたけど、この喫茶店ではそう言う話しか聞いたことがないから……」


「男の中のクズ中のクズね」


「と、友香ちゃん……」


「ほら、さっさと行くわよ。席は?」


「えと……いつもの席だと一番奥の角せ………」



 友香ちゃんに説明しながら視線をそちらに向けて。そして、言葉が止まった。私の説明を受けて友香ちゃんもそちらに視線を向け、思い切り顔をしかめる。


 ……ああ、やっぱり今回もこの手の話だったか。


 視線の先には、春翔にぃと知らない女の人。指差そうとしていた手が力入らず降りて、顔から表情がなくなっていくことを自覚する。



「……綾、帰ろう」


「……え、あ、ごめん。大丈夫だよ。友香ちゃん、大丈夫!」


「どんな顔してるのかわかってるの?」


「……わかってるよ。でも、行かなきゃ。……ボイコットしても、無駄だって、もうわかってるから……」


「はぁっ!?」



 友香ちゃんの思わずの声の大きさに私も驚いたけれど、それは私を待っていた相手にも聞こえたみたいで。


 こっちを、見た。



「綾、待ってた」



 にっこりと笑って、私に向かって手を振る。私も、反射的に手を上げて笑った。



「お待たせ、春翔にぃ! ごめんね、遅くなっちゃった!」



 私のその態度に、隣にいた友香ちゃんが言葉を失っている。


 けれど、なにも言わない、言わせないようにと、何かを言おうとしている友香ちゃんの手を思い切り握りしめれば、私の意図を組んでくれたのか、友香ちゃんはなにも言わなかった。


 そのまま友香ちゃんと一緒に奥の席まで行けば、春翔にぃは少しだけ顔をしかめる。


 けれど、そんな事は気にしない。気にしたらダメだ。



「たまたま友香ちゃんと会ったの、一緒にいいよね?」


「……もちろん、綾の友達なんだから」



 そう言って、私は無理やり友香ちゃんを巻き込んで席に座った。いつも通り、私は今から春翔にぃが紹介する彼女である女性の前へ、友香ちゃんが春翔にぃの席の前へ。


 そうして始まる。茶番のような時間が。


 けれど、今回はそうでは無かったらしい。



「綾、この人は俺の“婚約者”だ」


「…………え?」


「まだ先の話ではあるが、結婚する。だから、綾にも紹介したくてな」


「……そう、なんだ?」


「ああ。悠里、この子が綾だ。可愛いだろう?」


「ええ、本当に。こんにちは、綾ちゃん。わたしは渡辺悠里。よろしくね」


「はい、よろしくお願いします。……でも、私は春翔にぃと別に血縁というわけではありませんので、私にそんなにも気を使っていただかなくてもいいんですよ?」


「けれど、春翔が妹のように可愛がっている女の子って言っていたから。やっぱり、わたしも仲良くしたいじゃない? よろしくね、これからは、わたしのこともお姉ちゃんって呼んでくれてもいいからね!」


「……ありがとうございます」



 ……ああ、早く帰りたい。

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