第3話
◯
『春翔にぃ、大好き!』
『綾、将来は春翔にぃのお嫁さんになるの!』
『春翔にぃ、私のこと、好き?』
『春翔にぃ! 春翔にぃ、なんで?』
『春翔にぃ、私、ちゃんと好きなんだよ? ちゃんと春翔にぃがすきなんだよ!』
『……妹……、え? 妹?』
『……そっか、…………そっか……ごめん、なんでもない』
『ねぇ…お姉ちゃん、逃げてもいいと思う?』
『我慢できない。たぶん…無理。私は、もう春翔にぃから逃げたい』
『この大学にする。うちから通うことはできないから、学生寮に入る。事前に申請してさえいれば受理してくれるってことだった。ここなら……ここなら、私ももう、解放されると思うし。このまま追いかけ続けても、私は成長できないと思う。だから、許可してください』
『勉強も頑張る。でも、ちゃんと向こうでもバイトもする。生活費っていうのは無理だと思うけど、自分の食費くらいはちゃんと稼ぐ』
『誰にでも初めてがあるのは当たり前だよ。なんでそんなにも否定的なの? というか、どうして春翔にぃの許可が必要なのか全くわからないんだけど……』
『春翔にぃ、私は、努力した結果この大学に合格したの。それなのに、どうしてそんなにも反対するの? なんで私の道を、春翔にぃが決めようとするの?』
『私は、もう子供じゃないんだよ』
◯
目覚めはとてつもなく最悪だった。なんであんな夢を見たんだろう。あー、テンションが下がりまくる。
というか、ワタシの気持ちをこんなにも踏みにじって置きながら、なんで彼女の紹介とかするんだろう。意味わからん、本当にワタシの言葉は本気にされていないらしいと自覚させられてしまう。
ため息をつきながら私は体を起こして身支度を整える。スマホを手に取って友香ちゃんにメッセージを入れれば意外と早くに返信が来てそれを確認する。
よかったと安心してそのまま身支度の準備を再開しようとした時、違うメッセージが入ってきていることに気づいた。
確認のためにそれを開いて見てみれば、そこには春翔にぃの名前が入っていて。
「…………え、なんで?」
思わず、一人部屋の中でそう呟いてしまったのは仕方のない事だと思う。
とりあえず無視しよう。今日は久しぶりに友香ちゃんと一緒に大学に登校できるんだし。ちなみに先ほどの友香ちゃんのメッセージは“一緒に登校しよう!”というメッセージに対して“良いよ”という返信だった。
とりあえず、何かしらの反応をした方が良いのはわかるけれどそれをしたくないという気持ちがあるのも確かで。
逃げていると言われて仕舞えばそれを否定する事はできないけれど、それでもそれをするしかワタシには逃げ道が無かったのも確かで。
……お姉ちゃんに一回連絡をしよう。そして助けを求めよう。それが一番の正解な気がする。
そうして、私は早速お姉ちゃんに連絡を入れたのだった。
「……綾、意外と苦労してたんだね……」
ここまで来て、友香ちゃんに事情を話さないというのもできなかったため、私は洗いざらい白状した。いや、ほんのりふんわりと伝えてはあったけれど、どちらかというと私が初恋拗らせたみたいな説明をしていたため、友香ちゃんとしては干渉するのはやめていたらしい。
が、今回の件で何か思うことがあったのか、大きなため息をついて何か納得をしてくれたらしい。
……うぅ……ごめんなさい……。
「もーねー? ごめんなさいねぇ、友香ちゃん。今度うちの会社のブランド化粧品プレゼントするわぁ」
「え、まじですか? ありがとうございます。いただきます!」
「素直! 私の心配してくれてたはずなのに!!」
「綾、涼香さんの勤めてる会社の化粧品めっちゃ高いの知ってるの? 一学生が手に出せない代物なのよ? それをただでくれるって言ってくれてるのにむげするなんてできるはずないじゃない!」
「……友香ちゃん……」
そういえば、友香ちゃんは化粧品には目がないんだったわ……。
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