第2話

「……綾、またお迎えが来てるけど……」


「幻覚」


「綾……現実逃避しないで」


「無理。ほら幻覚!」


「諦めなさい」


「……なんで来てるんだろう……」



 思わずため息をつきながらそう独り言を呟いた私に、友人の友香ちゃんがなぜか私の見る目にちょっと冷たさが宿っている。


 ……いや、本当にわからないんだってば……。



「綾、迎えに来たよ。寮まで送るから一緒に帰ろう」


「……春翔にぃ……私別に春翔にぃのお迎えとか必要ないんだよ? 寮って言っても歩いて15分だから。毎日毎日なんで迎えに来るの? というか仕事はどうしたの?」


「自営業なんだから好きな時間に行動できるんだよ」


「……ソウデスカ」


「ほら、あ、よかったらお友達も一緒にどうぞ? 場所も同じなわけだし、遠慮しないで」


「……いえ、あたしはいいです。一人で帰りますから」


「友香ちゃん!!」


「じゃ、またね、綾」


「待って待って待って! お願いだからもう少し私と一緒にいよう!?」


「邪魔者は退散します」


「邪魔者じゃないむしろ救世主!!」



 必死に友香ちゃんを引き止めていたのだけれども、友香ちゃんはあっさりと私の手から逃げ果せて、そのまま本当に一人でスタスタと帰ってしまった。


 そりゃ毎日こんなことになってたら嫌にもなるよね、分かりますよ!?



「あら、お友達は良かったのかな? じゃ、帰ろうか、綾」


「……春翔にぃ、彼女さんはどうしたの……」


「別れた」


「早くない!? つい一昨日紹介されたばっかりだよ!?」


「俺の行動に理解してくれないんだから仕方がないだろう?」


「その行動に問題があったんだよね!? それその理由で別れたの何人目!?」


「さぁ? 数えてない」


「……数えるのが面倒なほどその理由でさよならした人がいるってことなんだね……。…………すごく申し訳なくなってきた……」



 ため息をつきつつ、私はそろそろと春翔にぃから距離を取ろうとしたのだけれど、それを許す春翔にぃではなくて。私の腕をガシッとしっかりと掴んでそのまま助手席にのせられる。


 そうして私は有無を言わさず、春翔にぃに連行されるが如く、学生寮までの数分間を車で移動させられるのだった。


 寮に着いたらついたで、私がきちんと玄関口を通るのを見張るかのように長い見送りまでしてくる。私はその視線から逃げるようにさっさと遼の中へと逃げるのだった。



(私の言葉を気持ちも、本気にしてくれなかったくせに……なんでこんなことするのよ……)



 理不尽さに、私のストレスは日に日に溜まっていくだけだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る