第1話

私の言葉を本気で受け取ってくれない貴方。


 どうしたら、私の言葉が本気だって、理解してくれるのだろうかって、何度も考えたけれど、やっぱり私には分からなかった。





 大学に入学してから一人暮らしを始めると言った時、一番反対したのはなぜか両親ではなく、隣に住んでいる幼馴染みのお兄ちゃんだった。


 けれど、私の通う予定の大学は実家から通うとなると三時間くらいはかかる場所で、さすがに毎日毎日片道三時間、帰りのことも考えれば六時間も通学に当てたくない。と、何度も何度も説得し、最終的にはなぜか私の両親まで私の援護射撃に入り、なんとかお兄ちゃんを説得して、漸く私は大学の学生寮に入ることを許可された。


 いや、そもそもなんでお兄ちゃんの許可が必要なのかが全くわからないんだけれども。


 どう考えてもおかしいと思うのだが、説得することに疲れ果てた私たち家族は、そんなことを気にする余裕すらその時にはなくて。


 ただ一人、私のお姉ちゃんだけは途中までは楽しそうにカラカラと笑いながら聞いていたが、最終的には思い切り引いた表情をしていたのが気になるけれども、それすらも私には問うことができないぐらいには疲れていた。


 引越し準備というわけではないけれど、必要なものを簡単にまとめて、私は学生寮での生活を始める。


 結構充実した施設だったし、セキュリティーも別に悪いわけではないと思う。流石に女子寮ということもあるため、入口のセキュリティーはしっかりとしていた。それに、部屋に異性を入れることは禁止されていたし、変なことが起こることは皆無と言ってもいい。


 まぁ、そういうあれやこれやをしたいのならそういうあれやこれやができる専門的なところに行けということなのだろう。


 なんとも優しいといえば優しい学生寮である。


 友達だって出てきてたくさんお話もできるし、バイトも始めて、少しだけれども自分で稼ぐこともしている。


 そう、私としては毎日が充実していたのだ。


 けれど。



「綾!」



 どうしてか。


 私の大学に、なぜか毎日毎日、噂の隣の幼馴染みのお兄ちゃんが通ってきているという、非日常以外は、充実していたのだ。


 私と一緒に校門から出ようとしていた友人たちは、最初はそれはもう驚いていた。なぜって、その隣の幼馴染みのお兄ちゃん、実はイケメンさんなのです。お約束だよね。そんな人が仲良くなったばかりの友人を迎えにきたという事実に驚かない方が、私が驚く。


 お兄ちゃんの顔面偏差値が高いのはちゃんと自覚していたし、何より、なぜ私がこの大学に死に物狂いで入学したのかというと、この人から逃げるためでもあったにもかかわらず、なぜ私の目の前にいるのか最初は理解できなかったのは仕方がないと思うのだ。

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