第66話

その姿はいつものクゲ君と何も変わらない。



他のお客さんに聞こえないように配慮してるのか、ちょっと話す距離が近いかなってくらいで。





「来ちゃダメって言ったじゃん」


「ごめん。マキちゃんに会えそうなのココしかなくて」


「だからって…。キリちゃんにこんな俺、見られたくなかった」




クゲ君は心底落ち込んだように、私の手を握り締めたまま、しょぼーんとした顔で言う。



それも、よっぽどショックだったのか力尽きったように私に寄り掛かってきた。



めちゃくちゃドキッとすると同時にビビる。




「ちょ、ちょっと、それはマズいんじゃない?」


「んー…。分かってるんだけどね。すげぇショックだから許して」


「いや、別にそんなショックを受けなくても」


「無理。何か泣きそう」


「えー…」


「だからエネルギーチャージ」




ふざけてるんだか真剣なんだか判断に難しいことを言って、クゲ君は私の肩におでこをくっつけたまま、なかなか私から離れてくれない。



ずっと、ひっついたまま。



気になって隣を見ると、いつの前にか最初に居た男の人は消えていた。




どうやら気を利かせてくれたらしい。

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