第61話

「なんで消したの?」


「信用して欲しかったから」


「不便じゃない?」


「別に。連絡することもないし」




いや、そんなことないでしょう…と思うが、クゲ君は当たり前のように言う。



横からチラリと画面を覗いてみれば、確かに女の子と思わしき人物の名前はない。



あるとすれば私とマキちゃんの連絡先だけで後は男の子の名前だった。



誠実なのか生真面目なのか…、そんなことするなんて、ちょっと意外。



あの時は半ば断ったようなものだったのに。




「あ、じゃあ、私、行こっか?」




そう言ってしまったのは無意識だった。



微々たるものだけど、応援したい気持ち。



しかし、クゲ君は首を横に振る。




「それは絶対にダメ」


「でも…」


「マジで。むしろ来ない方がいいよ」


「なんで?」


「最近、マキちゃんがよく来てるらしいから」




鉢合わせて店で揉められたら困る、それにキリちゃんにはそんな場所に足を踏み入れて欲しくないから。と、クゲ君は真顔でそう言ってスマホを鞄に片付けた。



そんな場所にマキちゃんが…?


学校もサボって皆からの連絡も拒否って?



いったい、何をやってるんだろう…。



考えれば考えるほど気になって仕方ない。




マキちゃんは私にとって大切な友達で、しかも最後に会った日の荒れた様子を思い出すと、かなり心配だった。




だから、その店へ私が足を運んでしまうのは極自然で避けようのないことだった。

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