第75話

side:精霊


 夕方になった。いつの間に夕方になったのだろう。おかしい。記憶はお昼の勉強が終わったところで止まっている。それからの怒濤のような人の来訪に目を回していただけしかしていない。


 いや、そもそも、なんであんなにもみんながみんなばらばらで訪問してきているのだろうか。話を合わせているのだろうかと疑ってしまうのは仕方のないことである。


 いまだにお昼に食べたお菓子がお腹に残っていて、さらにはそこに紅茶まで流し込んだのだからなかなか消化されないらしく、夕飯は丁重にお断りしてしまった。


 その時の家族の反応といえば過剰と言えるほどに心配してくれていて、私は誤魔化すのが大変だった。


 疲れてしまったのもあって、私は行儀が悪いと分かっていてもそのままの格好でベッドにダイブした。


 ぽふん、とふかふかのシーツが私を受け止めてくれる。


 ため息を大きくつき、気持ちを落ち着けようとした時。



『おつかれねぇ〜』


「っ、水のエレメント様……!?」


『いえね、あんまりにも大きなため息だったから。それに、あなたの“中”にいるからある程度の感情とかは共有できちゃうじゃない? 疲れたーって感じだったから、癒してあげたいなって』


「……いえ、その……」


『隠さなくても大丈夫よ〜。それにしても、なんだったのかしらねぇ?』


「……はい。みんな、どうしてあんなにもバラバラにきて私に構ってくれたのでしょう……?」


『まぁ、それはなんとなーく分かるけれどね?』


「そうなのですか……?」


『うぅーん、まぁ、本人たちに聞いてご覧なさいな。悪気はなかったと思うわよ?』



 そういって、水のエレメント様はコロコロと微笑んでいる。なんのことなのかさっぱりわからない私からしてみれば、本当に疑問しか浮かばない。


 それでも、意図することなく家族と言える人たちとか過ごせたのは私も嬉しいばかりなのでそこにかんしては胸がほっこりと暖かくなっているような気分だ。


 無意識に笑みが溢れていたのか、ひょいっ等覗き込まれた私は本当にびっくりした。



「きゃっ!?」


『ああ、すまない。珍しく心から笑っているなと思ってな』


『火の…あなたにはデリカシーがないの?』


『水の、そんなものがあったなら、俺は俺ではなくなっていると思うぞ?』


『自慢するところではないでしょう……」



 はぁー、と水のエレメント様が大きくため息をついているのを見つめながら火のエレメント様が特に悪気もなさそうに堂々してていらっしゃるのを見て、私はまた少しおかしくて笑ってしまう。

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