第74話

Said:国王(父)編


 シエルお姉様の紅茶攻撃をなんとか撃退して、私は水分でさらに苦しくなったお腹を落ち着かせるために、椅子に座ってじっとしていた。というよりも、動けないし、動きたくない。


 今日はどうしたんだろうと、愚問に思っていると、再び、私の部屋をノックする音が響いてくる。


 今度は誰だろうと思いながら返事をすれば、部屋の扉を開けて入ってきたのはこのロトメールの国王陛下――つまり、私の父だった。



「!? 国王陛下っ!?」


「今はプライベートだから、そんなにかしこまらなくてもいいんだぞ、ステラ」


「あ、は、はい。すみません……。えっと、それで、どうされたのですか?」


「ああ、ステラには何十年も辛い思いをさせていたから、その贖罪の意味も含めてプレゼントを持ってこさせたんだ」


「え?」


「お前は、あまりドレスを持っていなかっただろう? だからたくさん作らせたんだ」


「えっ」


「クローゼットもまだまだ空いているだろう? それが埋まるくらいには持って来させたから、一緒にみよう」


「えっ!? ま、待ってください! 私は今の分でも十分……!!」


「気にいるものがあるといいんだが、何せ数が多い。早く持ってきてくれ!」


「ま、ま……っ!!」



 制止虚しく。


 次から次へと私の部屋に運ばれてくるドレスに、私は目を回しながらすでに見る元気もなく、適当に受け答えしてしまったのは仕方のないことである。


 ……後から気づいたことではあるけれど、国王陛下が持ってきてきださったドレスの中には、あきらかに避けられている色があったのは、ここだけの話である。



said:王妃(母)編



 国王陛下退室の後、廊下から話し声が聞こえてきた私は、なんとなく嫌な予感がよぎり、そっと扉を閉めようと体に鞭打って扉の方まで足を進めたけれど、かめのあゆみのように遅かったため、扉のすぐそばで、バッチリと視線があってしまった王妃様をそのまま部屋にあげることとなった。


 どうせならもういっそみんな一緒に来てくれればいいのにと思いながら、私は現在、母と共に目の前に並べられたアクセサリーに目を回している。



「あなたはとても綺麗な瞳を持っているから、赤はダメねぇ。いっそのこと、マレ様の瞳の色のアクセサリーをたくさん作りましょうか!」


「え」


「そうなると、碧の石が必要ね。どう? 用意できるかしら?」


「ちょ、あ、あの……!?」


「もちろんでございます! 今も少し持ち合わせておりますが、ご覧になられますか?」


「まあ、もちろん! ネックレスも欲しいし、耳飾りも欲しいわ。指輪は彼がやきもちを焼いてしまうかもしれないからやめておきましょうね。ブレスレットとあとは……」



 すでに、私には意見を聞いておらず、母は楽しそうに宝石商人と歓談している。アクセサリーに使われる石の色がマリンフォレス様の瞳の色と同じというのは決定事項らしく、あーでもないこーでもないとうんうんと悩みながら、しかし私の存在を無視して話が進んでいく。


 ……私、この場に必要ないんじゃ? と思ってそろりと体を動かそうとしたら、すぐ真隣に座っていた母が私の腕をがしっとつかんでその場に縫いとめる。


 何故、と思いそちらを見れば、ものすごい笑みを向けられて私は結局、その場で大人しく待っていることしかできなかった。

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