第69話

私の指には、二つの指輪が付いている。


 右手の人差し指には、エレメント様との契約の指輪が、未だそのに鎮座している。


 そしてもう一つ。



 ――私と彼の、想いが繋がった証が、左手の薬指に。



「ステラ」



 柔らかく、私の名前を呼んでくれるその声に、反応する。



「はい」



 優しい微笑みが、絶えず私に向けられていて、少しだけくすぐったい。けれど。



「幸せになろうね。私の愛しい人」


「…マレ様……」



 それよりもなお、優しい笑みが、彼が照れた時にする私の頬にを添えるその手が、なによりも、嬉しくて。


 私も、同じように、心からの笑みを浮かべて、応える。



「勿論です。マレ様」



 言葉を一度止めてしまうと、マレ様が不思議そうに私を見つめた。


 私は、ぐっと体に少しだけ力を入れて、マレ様の胸の中に飛び込んだ。それを、危なげなく受け止めてくれるマレ様に、私は続きの言葉を投げつけた。



「私を、世界一、幸せにしてください。私も、あなたを世界一、幸せにしてみせます!」



 私の言葉に、マレ様は驚きにその碧眼を見開き、そしてすぐに私の腰に手をそてえ、そのまま持ち上げてくれた。



「勿論だ。私は、君をこれ以上ないほどに愛し、幸せにするよ!」



 マレ様のその一言に、会場が、さらに大きく盛り上がった。









「……行かなくてもいいのか?」



 気遣うようにかけられた言葉に、首を振った。



「行っても、困らせるだけだと思うし……。それに、周りの人はわたしを許してはいないだろうから」


「けど、さ……」


「いいの。わたしには会いたくないと思うし。あれだけの事をしてきたんだから、仕方がないんだけど、ね」


「……あんたが…どれほどの事をしてきたのかは知らないが、今は違うだろう」


「それはそれ、これはこれだよ。自分でも、最低なことしてる自覚はあったしねぇ……」


「は?」


「あ、こっちの話」



 少女の言葉に首をかしげる青年に、少しだけ慌てたように弁解して、盛大な結婚式が行われている会場を見つめる。


 そして小さく、本当に小さく呟いた。



「“物語通り”にいって、本当に良かった」



 そうして、彼女はひっそりとその場から立ち去ったのだった。


 彼女のその後ろ姿を見つめながら、青年は頭をがしがしと掻きながら彼女の後を追ったのだった。


 呼びかけに、軽く返事をしてくれるその少女の笑顔は、とても晴れ晴れとしたものだった。

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