幸せ、それは愛しい人と作るもの
第67話
*
私は、きっと、世界で一番、幸運な人間だったのかもしれない――。
*
「ステラ」
優しく微笑んで、私に手を差し出してくれるその人を見つめる。
視線と頬が赤くなってしまうのは、仕方がない事だと思いたい。
「マレ様」
ようやく呼び慣れてきたその名前を、ゆっくりと舌に乗せて、発音すれば、それはもう満面の笑みで答えてくれる。それに恥ずかしさが倍増されて思わず昔の呼び方に戻ってしまうこともしばしば。
「マ、マリンフォレス様、あの」
「……ステラ?」
「え、あ! いえ、あの、これは……っ!」
「……いつになったら定着するんだろうね? …………ああ! いっそ、マリンフォレスと呼んだらペナルティーを受けるとかどう?」
「えっ」
「せっかくのウエディングドレスを台無しにするのは忍びないから。ちょっと軽めにしようか」
「か、軽めって……あの、も、もう間違えないようにしますから!」
「そう言って、早何年かな?」
「あぅ……」
いつのまにかものすごく目の前まで迫ってきているマレ様に、私は内心で悲鳴をあげる。
近過ぎて、心臓が……っ!
と、私たちのいる控え室の外から、ものすごい勢いで音がなっていることに気づく。その音はとても聞き慣れたものであり、私は思わずホッとしてしまい、マレ様はため息をついていた。
「マレぇぇぇええッ!!」
「はいはい、何ですか、義弟よ」
「ムカつく! 腹立つ!! 今すぐに無かったことにしてやる!!」
「やれるものならやってみるといい。絶対に返さないからな!!」
「なにその自信!! 本当に嫌味ですね!!」
「もう二年待ったんだ。いい加減許してくれ!!」
マレ様の全力の叫びに、私は思わず苦笑してしまった。
そう、もう二年も待たせてしまった。それは、国の問題だったり、私の力の問題だったりで、伸びに伸びてしまった。
――それでも。
(待ってくれていたことに、私も、もちろんロトメールという国も、感謝しなくては)
なにしろ、相手はマリンフォレスという大国。その相手は第一王子。待ってくれただけでも、奇跡というほかにないのだ。
(私は、これからもこの人の隣に居られる。この人の隣で、笑っていていいんだ……)
胸に、感慨深いものが過る。この二年、必死に私に心を砕き、私を励まし、認め、そして深い愛情を注いでくれたこの人を。私も、同じように愛情を返すことに、すごく時間がかかってしまったけれど。
それでも。
「姉様、無理することはありません。今からでも遅くないです!」
「ジュード、なに説得にかかってるの。やめて」
「マレは黙っていてください!」
そんな微笑ましいような光景を見ながら、私は、心の底から笑顔を浮かべられる。
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