第65話
「なんて?」
「契約破棄はしないと言ってるわね」
「……なんか、想像とはだいぶ違ってて驚いてる」
「高貴なイメージがあったのはわかる。まるで子供のわがままなんだね」
「滅多なことは言わないで。存在そのものが高貴なのは間違いないのだから」
ひそひそと後ろで話しているのを微かに拾いながらもなんとか言葉を続ける。
「あの、ですが、私は他国へと嫁がなければなりません」
『そうなのか?』
『まぁ……』
『えっ』
『年頃だもんなぁ』
「なので、エレメント様と契約を続行するのは難しいのです」
『なんで? そのまま付いて行くからいい』
『そうですねぇ』
『嫁ぎ先にも甘いものはある?』
『心配するな。ちゃんと守ってやるぞ』
「そ、そういうことではなくて……あの、ロトメールにいていただいた方が、私ま安心ですし、国も安心すると思いますし……!」
『けど、それは国の保身だろう?』
『私たちにはあまり関係ないかと』
『知らないよ』
『ま、ぶっちゃけお前の中に入っていた方が心地いいしな!』
「………………し…シエル様、ジュード様……!」
半泣きの状態で、思わず助けを求めてしまったのは仕方がないことだった。
**
結局、私は説得を失敗に終わってしまい、少し落ち込んでしまう。
焦っても仕方がないとわかってはいるけれど、マリンフォレス様だって、いつまでもこのロトメールにいることはできない。どこかのタイミングで、彼は国に帰ってしまうのだ。
(……それは、さみしいな……)
私は、ぽつりとそんなことを思う。今まで当たり前のようにマリンフォレス様が私に会いに来てくれていたから、それに甘え過ぎていたんだと思う。彼がそばにいてくれることが当たり前になってる。
それではいけないのに、私は――。
『人は、めんどくさいな?』
「! あなたは…………」
『ああ、今はオレしかいない。安心しろ』
燃え上がるような真っ赤な髪を持つ優しげな風貌の男性が私の目の前にいた。
ふっと笑って私に話しかけてくれるその様子は、とても親しみ深くて、なんだか不思議な感覚でもある。
『ま、人の感情なんかを敏感に慮ってやれないオレたちにも非はあるかもしれないが、それでも、オレも含め、他のエレメントたちもお前の中が心地いいというのは嘘ではないからな』
「……私の中が心地いいとは…、どういうことなのでしょう?」
『そうか。そこからか……なんと言えばいいか……』
うーん、と考え込んでしまった彼を見つめて、私は少しだけ慌ててしまう。それに気にするなと首を振って、彼は私に教えてくれた。
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