第63話

「…ねぇ、これはもう我慢しなくてもいいの?」


「何言ってるんですか! 当たり前に我慢する場所です!!」


「いや……これは……ね?」


「ね、じゃないですから!! 大体、こんなところを姉上に見られたらマレが一番やばいんですよ!?」


「うーん、それはもう遅いから仕方がないかなぁ……」


「えっ」



 そう、マリンフォレス様とジュード様が会話しているのを聞きながら、私も、そっと顔を上げて、瞳に映った女の人に思わず歓喜の声を上げてしまった。



「シエル様っ!!」


「えっ、ちょ……」



 私はすぐさまにマリンフォレス様の腕から逃れて、ブランケットが落ちないようにしっかりと握りながらシエル様に駆け寄った。


 シエル様の目の前でつんとつまずいてしまい、そのままどさっとシエル様の腕の中に飛び込んでしまう。



「ごっ、ごめんなさい!」


「あら、平気よ。それよりも、ステラにけがはないかしら?」


「私は大丈夫です」


「ならいいわ」



 そう言って、シエル様は優しく微笑んで私の髪を優しく撫でてくれる。マリンフォレス様の時は恥ずかしくて仕方がなかったけれど、シエル様にしてもらうと安心して顔が緩んでしまうのを止められない。


 ふにゃりと笑った私を、シエル様はそれでも優しく

接してくれる。



「……なんでシエルには懐くんだろうね」


「俺が一番立場ない上に悲しいですからね、マレ。貴方じゃないですからね」



 二人が後ろでそんな会話をしていることなんて私が知るはずもなく、なおかつ、そんな二人に向かってシエル様が私に向けていた優しい笑みではなく、とても意地悪な笑みを向けていただなんて、私が知るはずもなかった。





**





 断罪を決行してから、すでに一月が経とうとしていた。周りの状況の変化に振り回されながら、ステラはそれでも、必死に食らいつき、生きていく。



『……まあ、良かったんじゃないか? あの子が望んだような結果になったんだろう?』



 火を司るエレメントがそう言う。



『そうですねぇ……全てがうまく言ったとは言いませんが、それは仕方がありませんものねぇ』



 水を司るエレメントがそう言う。



『なんでもいいんだけどさ。人の世の甘いものが欲しい』



 風を司るエメレントがそう言う。



『食い意地だけが張ってどうするんだ…。太るぞ?』



 地を司るエレメントがそう言う。


 彼らは、ステラに召喚されたあの日から、この現世に縛られてしまった。思っていたよりもステラの力が強く、離れることができなかったのだ。


 現在はロトメールの城で適当に過ごしている。

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