第62話
だから、祈ろう。
あの子が、挫けずにいてくれることを。私の言葉を、きちんと聞いてくれていることを。
私は、あの子から王族の身分を奪った。
ただし、
ただし、フロルはすでにロトメールの属国にしてしまったから、国という体裁は保てないけれど、それなりの爵位を返して、フロルに行かせることはできる。
そのことに、気づいてくれれば、私は――。
『物思いにふけっているのもいいけど、後もうちょっとで唇奪われる』
「……っ!?」
突然聞こえてきた声に、私はばちっと目を開けて、そして停止した。本当にすぐ目の前に、マリンフォレス様の顔がある。それはもうたいそうなご尊顔が。
マリンフォレス様は「おや、惜しいね」と飄々と言ってのけたのだが、私は、それを理解した瞬間に、思い切り悲鳴をあげたのだった。
「マレぇぇぇええええっ!!」
「おっと、早いおこしだね、ジュード、いや、義弟君?」
「絶対に認めないからな! すぐにでも破棄させてやる!!」
「何を言ってるんだ、ジュード。我がマリンフォレスと友好を続けたくないのかい?」
「ならあなたではなく、あなたの弟の誰かにします! そして嫁いで越させます!!」
「何を言ってるんだ、全く。そんなことされるなら、とっとと既成事実を作ってしまうよ? これでも、だいぶ我慢してるんだ」
「きせい、じじつ…………え、きせいじじつ……? …………既成事実…………。……っ!!」
マリンフォレス様の言葉を繰り返して、理解してしまった。顔が一気に真っ赤に染め上がるのが自分でもわかってしまって、私はマリンフォレス様の腕の中でわたわたとしてしまう。
けれど、いつの間にか抱きしめられるような形になっているため、その腕から逃げることはできない。わたわたとしている私を抱きしめながら、マリンフォレス様はくすくすと耳に心地の良い笑い声を小さくあげている。
それがさらに恥ずかしくて、私は無意識に私の体に回されているマリンフォレス様の両腕に顔を埋めるようにしていた。
「………………」
「……姉様」
ジュード様の声に、私はただ首を左右に振るしかない。恥ずかしすぎる。
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