愛情、その形は一つではない

第61話

私の指には、なぜかエレメントそれぞれの色の指輪が付いている。


 なんだろうと不思議に思っていたのはほんの数週間前のことだ。バルコニーに出て、それを月の光に反射させながらぼぅとしていると、突然、肩に柔らかなブランケットをかけられる。



「!」


「体を冷やすのは良くないよ、ステラ姫?」


「マリンフォレス様……」


「マレと呼んでくれと言っているのに、あなたは頑なだね?」


「……私は、あなたの隣に立てる人間ではないのです。だから……」



 そこまで口にすると、すっと指が伸びてきて私の唇にふに、と押し当てられた。


 驚いて目を見開いて目の前にいる人を見つめてしまう。少し困ったようにそな眉を下げた表情を見て、私もどうすればいいのかわからなくなる。



「ねぇ。ステラ。あなたはとても慈悲深いことをしたんだ。それは、同じ王族としてみるならば、とても優しいとともに、甘い行動だったと、私は評価しているよ」


「…………」


「自国内での揉め事ならば、可哀想、しょうがない、で済ませられる。けれど、今回はそうではなかった。ロトメールという最大国家の、しかもその王族の中でも宝物として大切にされるべきあなたが他国で迫害されていた。それは、その国がロトメールという国を侮辱したのと同義なんだ」



 わかるね? と、優しく諭すようにマリンフォレス様が私にいう。私は。こくりと小さく頷くことしかできない。


 そんな私の様子に、マリンフォレス様は優しく笑った。



「罰を与えるというのは、単純に言えば見せしめだ。国同士のいざこざならば尚更ね」


「……はい」



 違うと言えないのが、正直に悔しい。間違っていない。その通りだ。


 戦争に発展しなかっただけ、奇跡といってもいいのだ。



「そんな悲しそうな顔をしないで。あなたはもしかしたら間違ったことをしたのかもしれないけれど、それはそれだよ。逆に考えれば、あなたの行動は、最大の慈悲だったんだ」


「……でも、」


「これで、後がないということは流石にわかっただろう。それは、他国にも同じことが言える。もちろん、我がマリンフォレスも同じだ」



 私は、自分が情けなくなった。最善の選択ではなかった。あのまま、選択肢など設けずに、いっそ楽にしてあげたほうが、あの子のためだったかもしれないと、今でも思う。


 そんな私の思考を読み取ったのか、マリンフォレス様がおでこを突いてきた。



「んっ」


「難しい顔しないで。あなたが気に病むことなんて何もないんだ。ただ、フロルの王女は立場を理解していなかった。ただその一言に尽きるだけなんだから」



 そう言って、マリンフォレス様は私の髪を優しく撫でる。それをおとなしく受けいれて、私は目を閉じた。


 考えてしまうのは、悪い癖なのかもしれない。気に病まないでと言われても、私にはきっと無理だ。でも、それでも私はもうあの子に手を伸ばすことはできない。

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