溺れるほどに愛されて、溺れるほどに愛する

第60話

「あら、それならば私があなたに罰を下してあげるわ。なにがいいかしら……。これ以上ないほどに痛めつけ、辱め、死にたいと思わせるほどの目に合わせても、まだ足りないくらいなのに」

「……っ」

「それとも、いっそ潔く断頭台にでも立つ？　喜んで準備するわよ？」

　嬉々として話すシエル様に、フルールがこれ以上ないほどに怯える。けれど。

「シエル様は、口を挟まないでください」

　ぴしゃりと、私は言った。驚いた表情で私を見つめているその視線を感じながらも、私はフルールにのみ視線を向けていた。

　シエル様はなぜ私がここにエレメント様を連れてきたのか、力を欲したのかを理解しているのか、そのまま小さく息をついて下がってくれる。

　あとで改めてきちんと謝罪をしようと思いつつ、私はフルールから視線をそらすことなく、言葉を続けた。

「言われた通りよ。あなたに残された選択肢は二つなの。生きるか、死ぬか。どちらかしかないわ。死にたいと言うのなら、苦しまないように殺してあげる。それこそ、先程シエル様が言ったように、断頭台にかける。一瞬よ。痛みもなにもないわ。

　生きる選択をするのならば、それはたくさんある。私が下した罰を受け入れ、痛みのない生き方をするか、拷問にかけられ、半死半生の状態で生かされ続けるか。様々な責め苦を受けて生きるのを、“生きる”というのか、私にはわからないけれど、あなたが望むのなら、それを与えてあげる」

「な、なにを、言ってるのよ！　わ、わたくしは、あんたの、い、妹なのよ！？　その、か、可愛い妹を、こんな目に合わせて！　なにも思わないわけ！？」

「思う思わないは、また別の感情だもの。ただ、あなたは罰を受けなければならない。私という王族を迫害し続けたから。たとえ、私がこの国の王族だったとしても、あなたがしていたことは許されることではないわ。……それを、見て見ぬ振りをしていたあなたの両親も、同罪なのだけど」

　ちら、と玉座の方を見つめれば、そこにはすでに王も王妃もいない。

　逃げたのだろうか。けれど、それはきっと無理だろう。ぼんやりとそんなことを考えて、私は改めてフルールを見つめる。

「あなたに、選択肢をあげているの。一時的に王族の身分を剥奪され市井で過ごすか、拷問を受けながら生き続けるか、その首を落とされるか」

　残酷なことを言っているのはわかる。

　今までこの城の中でしか過ごして来なかったフルールが市井で過ごせるかと言われればおそらく無理だろう。

　彼女のわがままがまかり通る場所ではないのだから当たり前だ。けれど、なんの罰も与えないでこのまま解放することもできない。それはロトメールの名に傷をつける。

　今与えた選択肢は、全てフルールのためではない。

　ロトメールという国のためだ。

　市井に落とす――それは、とても慈悲深いと感動されるだろう。

　拷問にかける、断頭台に立たせる――それは、当たり前の処置だと言われるだろう。

　どちらに転んでも、ロトメールという国に対する印象、もしくはフロル国の印象を各国に印象付ける他にない。

　それでも。

「あなたに、選択肢をあげるの。私は、今この場で一番力を持っているわ。私に逆らう人は誰もいない。だから、私に願って。私に望んで。あなたが望むその罰を、私があなたに与えてあげる」

「………………そんなの……！」

　残酷だと、フルールのその唇が動いた。

　人でなし、と動いたのも知っている。

　それでも。

　――それでも、私はあなたを、守りたいと願ったの。