第56話
「――私に、ください。力を、ください」
マリンフォレス様の腕の中で、私はそう言葉にする。
マリンフォレス様が驚いたように私を見つめている。分かっている。今の私は異常だと。けれど、それでも。私は、欲しい。だからこそ、たとえ誰に笑われようとも、誰に指を、指されようとも。譲れない。譲りたくない。
だからこそ。醜く乞い願おう。
「私には、あなた達の力がどうしても必要なのです。あの場に戻った時、誰よりも、畏怖される存在に、他の誰にも、私の邪魔をされないために、力が必要なのです。だから…………だから、ください」
一人で何を言っているのだろう。先ほどまで人の声が聞こえてきていたのに、今はしんとしている。どことなく視線を向けられているようにも感じるけれど、私はそれを受け止めなければならない。
見定めようとしているのなら、そうしてほしい。
私が傲慢なことを願っていることなんてわかりきっている。けれど、どうか。どうか、見捨てないで。
《……とりあえず、その拒絶を無くしてくれなければこちらは何もできないよ》
《そうねぇ。今のままじゃ、貸してあげたくても、貸してあげられないって感じよ?》
《はぁ……めんどくさ》
《そう言うなって。俺は久々に楽しいぞ?》
次々と聞こえてくる声に、私は困惑する。拒絶をするなとはなんなのだろう。
とにかく、それがなくなればいいのなら。
「――全てを!! 受け入れますっ!!」
瞬間に、風が舞い上がる。私とマリンフォレス様を中心に。うねって、逆巻いて。上下左右あらゆる場所から風が襲ってくる。
《うわっ!?》
《あらあらまぁまぁ……、いきなり取り込むなんて……大胆なお嬢さんね?》
《それ言ってる場合!?》
《うおー、吸い込まれるなぁ》
声を聞きながら、私は、自分の体に変化が起こっているのを自覚した。身体的な何かがあるわけではない。ただ、体の内側に、何か別のものが入り込んでいるような感覚が強くする。
(あ、熱い……っ!!)
身の内を焼かれるような感覚に襲われながら、それでも。私は――っ!
(絶対に、受け入れる……っ、助ける……っ!!)
ただ、それだけを思って、耐えていた。
**
グラグラと地面が揺れる。あたりは軽くパニックになり、そこかしこから小さく悲鳴が聞こえてくるけれど、それは、“魔力暴走”で発生しているものだと理解しているシエルとジュードは違う意味でパニックになっていた。
「ステラ、ステラ!」
「姉様、マレ! 返事をしてください!」
突然、糸が切れた人形のようにかくりと倒れてしまった二人に駆け寄って、シエルとジュードは必死に声をかけていた。
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