第54話

手を差し伸べることは簡単でも、それに縋り付かれて仕舞えば、フルールは成長しない。


 だからこそ。



「…………シエル様」


「何?」


「私が……、ロトメールの第二王女だと言う証拠は、瞳だけですか?」


「ステラ……?」


「私がロトメールの王族だと言う証を、今ここで立てることはできるのですか?」


「…………」


「シエル様」



 黙ってしまったシエル様に、視線を、声を、届ける。顔を背けて、俯いているシエル様に、私はその方法はなくはないけれど、危険なのだと言うことを理解する。


 ――けれど。



「……シエル様が教えてくださらないのなら、違う方に聞きます。ジュード様は、ご存知ですか」


「…………知ってる。知ってるけど」


「教えられない、と言うことですか。分かりました。もう聞きません」


「ちょ、姉様」


「アレク様は? あなたは、シエル様と共にここまで来られたと言うことは、ロトメールにいらしゃる方でしょう。第一王女の護衛と言う大役を勤め上げる所を見る限り、王宮などにもいらっしゃる方ですよね」


「…………待って待って。姫さん、落ち着いてくれないか?」


「早急に、私はその方法が必要なのです。私に、ください」



 何を、と言うことは言わない。けれど、察しのいい三人は理解している。



「……なぜ、そんなにも“それ”を欲しがるのか聞いてもいい?」



 そう、私に伺い立ててきたのは、マリンフォレス様だった。


 私は、彼を見上げて、彼も私を見つめるために俯く。


 美しい碧眼を目に入れて、眩しく感じながらも、私もは言葉を紡ぎ出す。



「私が、決着をつけなければならないことだからです。これは、誰にも譲りません」



 はっきりと言葉に出せば、目を見開かれる。


 私は、疑っている。


 シエル様が、ジュード様が、マレ様が。あの子を認めていないことは知っている。だからこそ、今この場で断罪するのは好都合なのだ。けれど、それではなんの解決にもならない。そう、少なくとも、フルールの中では。


 わがままに振る舞い、他人を貶めることだけを覚えて、それによっていたら今度はどん底まで叩き落される。


 救いなど何もないそんな状況に、私は、絶対にしたくない。


 それならば、都合がいいと言われても。ただ夢みがちなんだと言われても。


 私は、私が考えたやり方で、フルールに救済を与えたい。



「私の手で、私はあの子を突き落とします。ですから、今ここにいる誰よりも、より強大なものが欲しいのです」



 私のはっきりとした言葉に、四人が目を見開き、私を凝視しているのを見つめ返していた。

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