第53話
本当に、子供がわがままを言っているかのようなその光景に、私は何も言えなくなった。
フルールは、このフロル国の王族だ。確かに、周りに甘やかされて育っていたのは知っているけれど、これはあまりにも酷いとしか言いようがない。フルールは、自分で考えることを教えられてこなかったのだ。
だからこそ、わがままを言う。周りを困らせる。そして、周りはそれに手を差し伸べ過ぎてしまったのだ。
扱いやすいように。甘やかせば、なんでも言うことを聞く人形に仕立て上げて。“フルール”という、最も育てなくてはならない人格を、殺したのだ。
そ事に対して、何か思うことがあるのかと言われると、なにも言えない。そもそもの発端は、全てフルール自身にあるからだ。私が注意喚起をしたとしても、それを受け入れる人間がいたかというと、いなかっただろう。とくに、フルールの周りにいる人間は。
どうして、こんなことになってしまったのだろう。
「…茶番は、終わった?」
そう、私の背後に立って声をかけてきたのはマリンフォレス様だった。すぐそばにはジュード様もいて、ジュード様のすぐ隣にシエル様がいる。いつの間にかの会場に入ってきたのか。気づけば、アレク様もシエル様を守るやうにその背中を守るように立っていた。
「マレ様っ! マレ様、どうして、どうしてですか……っ! わたくしの隣にいてください、わたくしがあなたの隣にいるはずなのです!!」
「残念ながら、それは物理的に不可能なので」
「そんなこと! だって、この国にはお姉様がいます! お姉様がこの国を受け継いでくだされば、わたくしはここに残る必要はどこにもない!」
「それは、あなたの勝手な思い込みでしょう。あなたの両親は……フロルの両陛下は、あなたを手元から離す気はさらさらないと思いますよ?」
「なんで、どうして…………どうして…?」
呆然と、呟かれた言葉に、その場にいる誰もがハッとして、そして理解した。
――そう、フルールは知っていたのだ。おそらく、私が本当は庶民のでの人間ではなく、どこかの国の王族なのだということを。そして、フルールにはそれが受け入れられなかったのだと。
冷たく当たっていたのは、私の身分を認めたくなかったからかもしれない。必要以上に貶めようとしていたのも、同じ理由なのだろう。
(……なんて、可哀想な子……)
フルールを見つめながら、私はそう思った。
可哀想で、哀れで、けれど、今までの行動などを考えて、このまま見逃してあげることができないという現実に直面する。
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