第50話

「そう。この認識はどこの国の王族でも一般常識・・・・なの。ねぇ、そうでしょう? フロル国の両陛下?」



 ゆったりと微笑みを乗せたまま、シエル様がそんなことをいい、両親を見上げた。私もつられてそちらを見れば、両陛下は、顔を青ざめさせている。


 眼を、見開く。


 そんな。ならば、私は――。



「もう分かるでしょう。この子は、生まれてすぐ、我がロトメールから誘拐された我が国の宝。もっとも魔力を保有する“祝い子”。我が国の第二王女――ステラ・レイ・ロトメールよ」



 会場の喧騒が大きくなる。


 私自身も、何が起こっているのかよくわからない。


 けれど、今目の前で起きていることが現実なのだと言うことだけはわかる。そして、壇上の上にいる、フルールが、ありえないと言う表情で私を見ていることも。



「な、う、嘘! 嘘よ、そんなの、あり得ないでしょう!?」



 会場の喧騒に負けないくらい、フルールが叫ぶ。



「その女が、ロトメールの王女!? そんな、野暮ったい女が、そんな大国の王女なわけないじゃない! それなら、わたくしの方がお似合いよ!!」



 フルールの言葉に、フロル国の貴族たちがざわめく。何を言っているのだと。なんという非常識な事を抜かしているのかと。


 けれど、今のフルールにはその声は届かない。



「ねぇ、そうでしょう? そこにいる女が、このフロル国の王女で、わたくしこそがロトメールの第二王女だったのよ! ね? ね? そうでしょ? シエルお姉様?」



 そう、フルールが呼びかけた瞬間。


 ――その場の空気が突然に重たくなる。まるで、上から何かに押さえつけられているような感覚だ。


 私もそれを一瞬感じ、けれどすぐにジュード様がそばにやってきて何かを囁いたかと思うと、その苦しさが軽くなる。



「……誰の許可を得て、私の名をお前ごときが呼ぶのかしら。それも、お姉様などと悍ましい!!」


「な、なんで……シエル、お姉、様……っ」


「まだ言うか。お前ごとき下賎のものが、私の名を口にするなと言ったのよ」



 怒気をあらわにしてそう言葉を紡ぐシエル様に、私は眼を見開く。


 そして、止めなければとも思った。このままでは、あの子が死んだしまう。それをさせるのだけはダメだ。そう、私が叫んだ。



「あっ、姉様っ!?」


「今動いてはいけない!!」



 シエル様に周りが注目している事もあり、私はマリンフォレス様の腕から逃れ、ジュード様の横を通り過ぎ、真っ直ぐにシエル様のところへと駆け寄る。


 多少の息苦しさを感じたのに、それが一瞬にして霧散する不思議さを覚えながらも手を伸ばし、私はシエル様のその細い腕を掴んだ。



「シエル様、いけませんっ!」



 そう叫んだ瞬間に、まるでガラスが割れたかのような音があたり中に鳴り響く。

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