第51話

その音に自分でも驚いてしまい、体がすくむ。


 後の余韻に襲われながらも、私はゆっくりと眼を開く。そして、シエル様を見つめた。


 紫の色が強いその瞳を見つめながら、私はもう一度言った。



「……シエル様、ダメです」


「…………ステラ」


「その子は、一応は私の“妹”です。怒りに、身を任せないでください」


「……少し冷静さを欠いていたわね。ごめんなさい。ありがとう」



 お礼を言われるほどのことはしていないと言おうとしたけれど、その前に私に駆け寄ってくる二つの影が現れる。



「ステラッ! なんて無茶なことを!!」


「姉様、怪我は!? 痛いところはどこにもない!?」


「あ、あの……私は大丈夫です。それよりも、フルールたちを……」



 そう言って、私が彼女の方に視線を向ければ、彼女は呆然と私を見つめている。


 首を傾げて声をかけた。



「……フルール? 大丈夫――」


「ばけものっ!!」


「え………………」


「なんなのよ、あんたなんなのよ!? わたしくの前にずっといて! わたしくに見向きもしないくせに、わたくしよりもずっと幸せで!!」


「フルール、落ち着いて……」


「そうやって! いつもいつもわたくしを哀れんで!! そんなにも楽しいの、そんなにも滑稽なの!? どうせ、あんただって影でわたくしを笑っているんでしょう!! 知ってるんだから!!」


「…………そんなこと…していないわ」


「嘘ッ!!」


「本当よ。だって、あなたは私のたった一人の“妹”だったんだもの」


「…………………」


「できる限り、あなたの希望を叶えてあげたかった。だから、あなたが私を嫌っているのだとしても、私は見て見ぬ振りをしたわ。そうして受け入れれば、あなたは満足したから。私をあなたよりも下に見れば、あなたは周りに迷惑をかけにくくなったから」



 淡々と話す私に、フルールが驚きの表情を隠さないでいるの見つめる。


 それでも、私は言葉を続けるべきだと思った。


 これ以上、無意味にここの人たちが苦しまないようにと。



「……本当はね。私、周りの人にたくさん助けてもらっていたの」


「…………は?」



 私の言葉が理解できなかったのか、フルールがとぼけた声を出す。



「不思議に思わない? 今まで、ほとんどをあの部屋で過ごすことになってしまった私が、礼儀作法も食事マナーもできるってことに」


「…………」


「実はね、お城にいる、見習いできている子や、あまり爵位の高くない子達が、私を気遣ってくれていたの」


「な……っ!?」



 フルールが驚きの声を上げる。

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