第48話
そんな私の様子をとても満足そうに見つめているだなんて、眼をそらしてしまった私が知るはずもない。
「――離れなさいよ、あんたっ!!」
突然の金切り声。それが私に浴びせられたのだと自覚できたのは、その声の主人が、私の“妹”から発せられたものだとわかったから。
幾度も幾度も、聞いてきたあの声。
私がその声の方に視線を向ければ、そこには顔を真っ赤にしたフルールが立っている。
今にもその壇上から降りて、こちらに掴みかからんばかりの様子に、少し恐怖を感じながら、見つめ返していると、まるで私を守るようにシエル様とジュード様が前に立つ。そして、私の腰を抱きしめているマリンフォレス様の腕の力が強くなった。
「マレ様、それにジュード! なんでその女のそばにいるの!? こっちに来てよ!!」
フルールのその発言に、会場にいる貴族たちが、両陛下が、顔を青ざめさせる。
しかし、そんな空気に気づく様子もなく、フルールは言葉を続ける。
「その女は、王族を騙ったただの庶民なのよ!? わたくしたちとは違うの! だから、そんな女のそばにいてはダメなのよ!!」
今度は、私が顔を青ざめさせる番だった。こんな面前で、なんてことを言うのだらうか。
いや、もしかしたらフルールは最初からそれをするつもりだったのかもしれない。私がシエル様とアレク様にそれを告白している時、そんなようなことを言っていた。最高の舞台で、と。
と言うことは、フルールの言う最高の舞台とは今この瞬間のことなのだと思う。
私はとっさに、シエル様を見、そしてジュード様とマリンフォレス様を見る。しかし、私の周りを固めている人たちに動じた様子はどこにもない。
むしろ、フルールのその発言に眉を顰めている。
どう言うことなのだろうと私も首を傾げていると、頭上から大きく深いため息が聞こえてきて、私はそっと、その人の名前を呟いた。
「……マリン、フォレス様……?」
「…………うん、救いようがないね」
その声音に、どきりとする。
「いや、まずはあなたに自覚して貰うとしよう。私は、あなたを愛している」
「え?」
「はじめにも言ったが、一目惚れだ。あなただけが欲しい。あなたは? あなたも私が好き? 私だけが欲しいと言ってくれる?」
「あ、あの、ですから、あなたの婚約者様は……」
「私の婚約者は、ロトメールの第二王女だ」
「ロトメールの……あの、でしたら、その方と幸せになってください、私は…………」
「ちょっともどかしくなってきたな……」
かすかにイラついた声。けれど、それ以上に私がマリンフォレス様の言葉を拒絶している事への悲しさがその声から読み取ることができる。
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