第47話
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驚くほどの時間をかけて身支度を整えられて、私はドキドキとしながら会場に入った。
第二王女殿下、という単語には首を傾げてしまったけれど、それよりも、こんなにも身綺麗にして、夜会に参加するなんてなかったため、そちらの緊張に全てを持っていかれる。
会場の中に入れば、私はあっという間に注目されてしまい、居たたまれなさからそのまま回れ右をして帰ってしまいたい衝動に駆られたけれど、会場の外の扉には、ここまでエスコートしてくれたアレク様がいることを思い出し、それはできないと思いとどまる。
『もし、戻って来たりしたら、そのまま抱き上げて、僕と一緒に入場、そのあと、マレ様に手渡して僕は退場しますから、そこんとこは覚えておいてください?』
会場に入るほんの一瞬の間に、そんな恐ろしいことを言っていたのだ。これは逃げ道を完全に塞いできた。
いや、そもそも、なぜあそこでマリンフォレス様の名前が出てきたのかという疑問を持つべきだったのだけれど、アレク様はその時間すらくれなくて、呼ばれるままに会場入りをしてしまったのだ。
一人ぽつんと立っていることしかできなくて、周りの人の視線が痛くて、どうしようかと思っていると、なぜかマリンフォレス様が声をかけてきてくださった。
私は、そうだと思い、ドレスのことを言おうと詰め寄ろうとすれば、それを見事に躱されてしまい結局何もいうことができないでいる。
なんだかよくわからないうちに、シエル様とジュード様に庇われる形になって、少しだけ冷静さを取り戻し、考えをまとめて見ようとするけれど、そらもあまりうまくいかなくて、一人悶々としてしまう。
「大丈夫ですか?」
「えっ?」
「顔色が悪いです。ここから出ましょう、姉様」
「………………えっと、私は、ジュード様のお姉さまではありません、が……」
「…………………………姉上、どういうことですか」
「まあ落ち着きなさい。全ては今からよ」
と、私にわからない会話をしているのを聞いていると、ぐっと腰を掴まれて引き寄せられる。
「きゃっ!」
驚いて小さく声を上げてから、慌てて仰ぎ見れば、そこには碧眼を持った美しい男性が私だけを見つめて優しく微笑んでくれていた。
しばらく、この笑顔を見ていなかったせいなのか、自分の気持ちに少し自覚を持ったからなのか、その笑顔だけで、私は自分でも驚くほどに顔が赤くなって、相手を見つめることができなくなってしまう。
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