第44話

そんな中で、フルールはひっそりと思っていた。


 どれほどここにいる女たちが歓声を上げようと、どれほどあの人に寄りかかっても、あの人はもうわたくしのものなんだと。


 その美しいかんばせには蕩けるほど甘い甘い笑みを乗せて、周りに笑顔を向けている。今日この日から、あの笑顔はただ一人、わたくしだけのものになると、フルールは信じて疑っていなかった。


 自分のすぐそばにいる、両親の顔が、青ざめていることにも気づかない、愚かな娘――。





**





(……今日この場で何をされるのかわかっているのは、あの両親と、顔色を変えた一部の人間だけか)



 笑顔を振りまきながら、それとはわからないように周りを観察し、マレはそう当たりをつける。


 それにしても、と考える。



(あの娘、自分がまるで一番可愛いと言っていたが、そうでもなくないか?)



 とんでもなく失礼でいて、尚且つ、現実的なことをマレは思っていた。


 確かに、フルールは可愛い。白金色の長い髪に、アクアマリンのように澄んだ瞳。ふわりと笑う姿はまるで妖精のような愛らしさを印象付けさせるのだろう。その声もかわいらしく、鈴を転がしたかのような声で、呼びかけられれば、まあ大抵の男は相手にするだろう。


 が、それは城の中だけを見ればの話である。


 参列し、自分を見ている令嬢の中にはあの娘にも負けず劣らずの令嬢がたくさんいる。あの娘と同系列の可愛い系の子も、綺麗系の子も。


 そう言えばと、マレは少しだけ思い出す。


 フルーフが思い切りマリンフォレスに対して喧嘩を売ったと言ってもいい場面に会った時、“フレスカ”が妙にあの娘をおだてていたなと。そして。なるほどという納得も生まれてくる。



(今まで、周りにそう言われ続けていたから、自分に妙に自信を持ったということか? とんだ勘違いもするもんだな……)



 そもそも、可愛いや綺麗は個人の感情で、また違う人間から見れば違う見方もありうるのだ。


 誰かが可愛いと言った人に対して、違う誰かは普通と言うかもしれない。


 そんな曖昧な褒め言葉を間に受けてそれをずっと受け入れてきたあの娘が、妙に自信過剰になるのも頷けると言えば頷ける。



(ま、その自信は、シエルに叩き折って貰えばいいとして…)



 案外鬼畜なことを考えながら、マレが思うことはただ一つ。



(……あの子もちゃんと参列してくれるのだろうか。あの子がいなければ話が進まないのだが……)



 そう考えつつ、シエルがいるから多分大丈夫だろうと勝手に考え、マレはただ笑ってその場をやり過ごすことを決意した。

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