第43話

「いや、ほんと、本当に、僕の命に関わるくらいまずい状況なんだよね、いま。今本当に。ほんっとうに」


「で、でも……っ!」


「大丈夫。姫さんも美人さんなんだから」


「……お世辞はやめてください。私が美しくないことなんて、私が一番分かってます……」


「………………なんとゆー重症……」



 しょんぼりと肩を落としていると、突然、私は両腕をガシッと掴まれた。


 え? とおもっていると、アレク様の後ろからずるずると引きずられるようにして部屋の中に連行されていく。


 え、あの、ちょっ、待って、と途切れ途切れに言葉を紡ぎ出すけれど、私の両側にいるメイドさんはそれを完全にスルーしている。


 アレク様に助けを求めようとしたけれど、無情にも振り向いた時にはアレク様はすでに扉をパタンと閉めた後で、その場にはもういなかった。



「さあ、おめかし、しましょうね!」



 そうして、私はいままでに味わったことのない、恐ろしく時間のかかる身支度を開始したのだった。









 そこは、城の中でも、貴族や重鎮のものだけが入室を許可される場所。


 もしくは、他国からの王族家族を出迎え、挨拶を交わす場所だった。


 その場には、すでにフロルの両陛下と、その娘のフルールが座っている。


 しばらくすると、自国の貴族たちがぞろぞろと入ってくるのを見つめながら、フルールは今か今かと待ちわびている。


 ああ。早く早く早く。早くあの偽物をこの国から追い出そう。そうすれば、わたくしだけがみんなに愛される。わたくしだけを、みんなが愛してくれる。わたくしだってみんなを愛して、愛して、愛し抜いてあげられる。


 いままでみたいに、一人一人とこっそりと会うような面倒はしなくてもいい。


 この世界にある、砂ばかりの国には後宮というものがあって、そこは王様が女を囲うための場所なんだとわたくしは知っている。


 ならば、女王となるわたくしが男を囲う場所を作ってもいいはずだ。ああ、待ち遠しい。


 口元を手元の扇で隠しながら、ほくそ笑むフルールの耳に、ようやく愛しい人の名前が挙がった。



「マリンフォレスの王太子殿下のお入りです」


「!」



 来た。そう思った。そして、視線をマレに向けて、うっとりとした。


 黒を基調とした、そのスタイルは、その金髪をより一層明るく見せる効果があるのか。金のモールを揺らしながら、シンプルでいて、それでも豪華さを損なわせない着こなしをするマレに、その場にいる女たちが全員ため息をつく。

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