第35話

もう、気がおかしくなだてしまいそうになる。



「シエラ様、申し訳ありません。あの子は、本当に何も知らないのです。両親が甘やかしてしまって……私も、それを受け入れてしまったから……!」


「そうね。それは確かにいけないことだったと思うけれど、あなたの行動自体は間違っていないと思うわよ?」


「で、でも……っ」


「なら逆に聞くけれど、あなたがあの女のことを思って、本気で怒ったとして、あの女はあなたの言葉をちゃんと聞き入れたと思う? 悪いけれど、私は思わないわ。むしろ、それをして仕舞えばあなたはさらに苦しい生活をしていたかもしれないわね」


「……それでも、間違いを正してこなかった責任は、あると思うのです……」


「その考え自体は悪くないわ。けれど、あなたがあの女の人生を背負う必要がどこにあるの?」


「え……?」


「王家の人間はね、助ける側にいなければならないのよ。助けられるばかりの方に行ってはいけないの。それは、国民の立場よ。王家の人間が国民と同じ立場になった時、優先順位ができてしまう。もちろん、世の中全てが平等だなんて思っていないわ。理不尽なことなんてたくさんある。けれどね、誇りは忘れてはならないのよ。ちゃんと、守る側の立場なんだと理解しなければ。国は成り立たないわ」



 そう言われて、私はどんな反応をすればいいのかわからなくなる。


 甘えて、可愛がられて。甘やかされて。


 自分の思い通りにならなければ癇癪を起こす。そんなフルールを咎めたことのある人はいただろうか。いや、見たことなどない。この離れの塔にいるからという理由だけではなく、彼女が周りに当たり散らすことはあっても、周りの人間がそれをなだめることなどできないのだ。


 だって、彼女は、あの子は――。



このフロル国で唯一の王族直系の姫・・・・・・・・・・・・・・・・なのだから。



 知っていた。知っていたけれど、どうしようもなかった。


 私は、やりきれない思いを胸に抱いてしまう。



「……私は、この国の、王族では無いのです……」


「……」



 私の独白に、二人はただ黙って聞いていた。



「どこの誰ともしれない、突然現れた赤子なのだそうです。私は、自分の出生を知らない。けれど、この国の王族の方は、そんなどこの誰とも知れない私を、ここまで育ててくださったのです……!」


「……そう」


「薄汚い私を、育ててくださった方に、私は……恩を返さなければならないのです……。たとえ、この命をなげうてと言われたとしても、それに従わなくてはならないのです……っ!」



 喉が痛い。私は、どうしてこんなことをこの人たちに話しているのだろう。


 目元に乗せているタオルに、水分が染み込んでいく。涙が出てきたのだろう。

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