第36話
「この命は、私のものではなく、この国のものなのです……。私に自由は許されない。私は、人形でいなければいけないのです……!」
痛む喉を無視して、私がそう言葉を吐き出せば、どろりとまとわりつくような声がそれに同意した。
「あら、わかっていたのね。つまんなぁい」
「!!」
「平民がこんなにも豪華に暮らせたのよ? その命がわわたくしたちのために使われるのは当たり前のことだと思わない?」
「フルール…………様…」
「そうよ。あんたみたいなやつに呼び捨てにされるなんて、ほんっと、腹わた煮え繰り返りそうなほどにムカついた! 下賤な女のくせに、わたくしと同じ空間にいるなんて耐えられなかったのよ。だから、ここに移動してもらったの。お父様とお母様も、喜んでいいわよって言ってくれて本当に良かったぁ!」
うふふ、と可愛らしく笑う声に、私は背筋が凍りつく。一体、どこからどこまでを聞いていたのか。いや、そんなことはどうでもいい。この子は知っていたのだ。私が、この国の人間では無いということに。知っていて、目を瞑っていたのだろう。
「はぁーあ。これじゃあ、せっかくの楽しみがなくなっちゃったなぁー。まさか自分から言いだすなんて。せっかくわたくしが最っ高の舞台を用意してあげようと思ってたのにぃー」
「…………随分と、えげつないことを考えているのね?」
「なーによ。あんたには関係ないでしょ? ていうか、わたくしに気安く話しかけないでよね」
「ああ、そういえば、まだ名乗っていなかったものね。しょうがないわ。でも、名乗るのはまた後ほどにしましょう。ねぇ、マレ。そろそろ準備はできたのかしら?」
「ちょっと、マレ様を気安く呼び捨てにしないでよ!!」
「はいはい。それで? どうなの?」
シエル様の言葉に、私は心臓が潰れそうなほどの痛みに襲われ、全力疾走した後のような動機の激しさに襲われる。
今、この場に。
マレ・アクア・マリンフォレス様が。
その彼の従者であるジュード様が、いる。
どうしようもないほどに動揺して、自分が何をすればいいのかわからなくなって。
それでも、体は凍ってしまったかのように動かない。
こつりと、音がする。これは靴の音。聞き覚えのある、靴の音。
あのたった三日間で、聞き慣れた。心待ちにしていた、音。
そして、ゆったりと紡がれて声は、ここ二週間ほど、聞けなかった優しい声音が、私の耳を犯した。
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