第34話

主従で言えばシエル様が主人のはずなのだけれど、今はなんだかアレク様の方が強い気がしてならない。



「だから、ごめんって言ってるじゃない」


「いやいや。これ、僕マリンフォレスの王太子に殺されますよ? どうしてくれるんですか?」


「そういうところはちゃんとフォローするって言ってるじゃない!」


「下手したら、ジュード様にも殺されるかもしれないのに?」


「うっ…………だ、大丈夫よ。なんとかする、なんとかするわ。絶対になんとかするから」


「……はぁ……それで、あなたはいつまでそこに隠れているつもりなですかね、シエル様?」


「髪が帽子に収まらないのよ。ちゃんと結ってきたのに」


「もういいから、こっちにきてください。そして場所を代わってください。このままの状態で本当にマレ様とジュード様が来たら、僕から殺されてしまいますから」


「……わかったわよ。そのかわり、ちゃんと私の髪を帽子に収めなさいよね」


「なんでメイド連れてこなかったんですか」


「こんなハプニングは予想してなかったのよ」


「……分かりましたよ。とりあえずこっちに来てください。そして代わってください」



 二人のよくわからない会話を聞きながら、私はそれでと、もぞもぞと体を動かす。しかし、シエル様からアレク様に代わった時と同じで、刹那の時間で交代されてしまったために、私はまだ拘束されたままだ。



「……っ、離してください!」


「ダメよ」


「どうしてですか!?」


「だって、あなた受け入れるつもりなんでしょう?」


「何を……っ!」


「あの、常識知らずの女の言葉を。その後に下されるであろうあなたのこれからを」


「……」


「そんなこと、許せるはずがないわ。絶対に許さない。この私に喧嘩を売ったことを後悔させてあげるわよ」



 その言葉を聞いて、私はどうしようもなく焦ってしまう。


 このままでは、ロトメールに思い切り喧嘩を売ったことになってしまう。それは本当に危ない。


 ロトメールが最大国家と言われている所以は、その王家の人間が“魔法”を支えるからだ。


 自然界を統べるエレメントの力を王家の人間だけが使うことができ、それ故に、あの国に戦争を仕掛けても負けるとわかっている周辺諸国がロトメールへの侵略をしないでいるのだ。


 しかも、その力自体、ロトメールのあの土地で生まれた王家の人間にしか継承されないのだから不思議なものなのだが。


 それよりも、そんな国家にあの子が思い切り喧嘩をふっかけ、そして怒らせてしまったのだ。

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