第33話
私のそばから人が離れていく気配がする。慌てて声を上げたけれど、それに対する反応はない。
諦めずに、私がもぞもぞと動いているのに、私を抑えているアレク様は全く気にすることなくしっかりと私を固定している。
たまらずに声を上げる。
「アレク様っ……!」
「はいはい。もう恨んでくれても憎んでくれてもいいですから、大人しくしていてください。大丈夫ですよ。シエル様ですから」
「そういう、ことでは…っ、無くて……っ!」
「まあ、シエル様なら、こっちに来させることはないと思いま――」
「あんたっ! 誰に断って鍵なんかかけているのよ!? この恩知らず!!」
「…………えー………………」
時すでに遅しらしく、どうやら扉のすぐそこにフルールが来てしまったらしい。そして、私の今の状況を見られてしまった。
やばい、まずいと、心が焦り始める。
「あら。まぁ……お姉様、何をしていらっしゃるの?」
「こ、れは、ちがっ……!」
「もしかして、秘密の逢瀬ですか? なんだ、それならそう言ってくださればいいのに」
「フルール、違うの、違うのよ、これは……っ」
「そんなに慌てなくても。あ、もしかして見られて気まずいのかしら? それとも、見ていた方がいいの?」
「フルール、お願い、私の話を……!」
「ああ、いっそのこと、マレ様やジュードを連れてきましょう! この状況を見れば、わかってくださるもの。お姉様なんかより、私の方がマレ様に相応しいんだって!」
「な、何をいって……そもそも、私とマリンフォレス様はあなたが疑っているような関係では……」
「こういったことは早い方がいいわよね! ああ、とっても楽しみ! マレ様、マレ様はわたくしのものです!」
うっとりとした声音に、体が震える。
そもそも、私とマリンフォレス様はそんな関係ではないのに。マリンフォレス様にはきちんとした婚約者がいるとあの方ははっきりとおっしゃっていた。
私が入る隙間などないほど、マリンフォレス様はその婚約者になった女性のことを思っているのだとわかるほどに、あの時のマリンフォレス様の表情は優しかった。
懸想するだけ無駄なのだと、思い知らされるほどに。
ばたばたと、フルールがここから去ったのが音でわかる。
どうしようと頭の中で必死に考えているのに、何も思い浮かばない。
「……とりあえず、シエル様、なんで通したんですかねぇ?」
「……悪かったわ。ちょっと、帽子を取られて、髪が……」
「それはいっそ切り捨てても良かったのでは? 今、この子にはタオル置いてて見えていないんですから」
シエル様の声音は少し元気がないような気がするのに、アレク様の声は、鋭さを帯びている気がする。
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