第32話
しばらくするとアレク様が冷やしたタオルを持ってきてくれた。水とかを入れた容器がないのが気になったけれど、それを疑問として口に出す前に、シエル様にベッドに誘導されて、そのまま横にされてしまう。
仰向けになるような寝かせられて、気づけば腫れてしまったまぶたの上にひんやりとしたタオルが置かれた。
視界が真っ暗になって、体が少しだけ強張るのを自覚する。
人がそばにいるのに、何も見えないと言うことに恐怖している自分がいて、そのことに、また自己嫌悪をする。
その時間が長く続くのかと想像して、やっぱり怖くて、起き上がろうとしたけれど、それはシエル様に止められた。
「大丈夫よ、安心して。絶対にそばを離れないから」
「シエル様……」
「出ていくときは、アレクもこの場から連れていくわ。ただ、防犯対策として扉の外には置いて行かせてもらうけれどね」
「私なんかに、そんな気を使わなくても……」
「なら、あなたは私たちがここを出て行った後も、きちんと鍵を閉めてくれるのかしら?」
「…………」
「できないのなら、私もあなたの言葉は聞かないわ」
バレている。そもそも、この事の発端は、鍵を閉められたと言うことから始まるのだ。今現在も、この離れの塔の私の部屋の扉の鍵は閉められているのだ。
こんな状況の中、もしフルールが来たら――。
と。そんなことを考えていたからなのだろうか。
――ガチャン、と言う音が響き渡る。
ハッとして起き上がろうとしたけれど、ぐっと体を押されて起き上がることができない。
「シエル様……っ!」
「寝ていなさい。いいわね」
「ですが……!」
「無理ならば仕方がないわね、アレク。抑えていてちょうだい」
「え、マジで言ってます?」
「ええ、言っているわ。早く」
「……あとで、怒りません?」
「そこまで鬼畜じゃないわよ。いいから早くなさい」
「はーい」
私が起き上がれないように抑えられていた肩から、手が離れたかと思ったら、刹那の時間で今度は男の人の手で抑えられる。
もぞもぞと動くことしかできなくて、抵抗なんてほとんどできていない。
「私が出てくるから、アレクはちゃんと抑えていて――」
「ちょっと!! 何鍵閉めてるのよ!?」
「……行ってくるわね、アレク」
「…………あの、ほんと、手加減っていうか…、騒ぎは起こさないで下さいね。僕の首が……」
「大丈夫よ。そのくらいならばちゃんと守ってあげるから」
少し恐ろしい会話をしている二人の言葉を聞きながらも、扉は何度も何度も強く叩かれている。
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